死因と処刑
リオンに今まで行なっていた執務についてと変わった国交について聞いていく。
自然とエリックの死因やその後の話となった。
避けて通れる話ではないと、リオンがティタンも呼ぶ。
エリックを殺したのは北の軍事国ナ=バーク。
凍てついた土地と、氷のように冷たい女王が治める国だ。
アドガルムとは仲は良くないものの、悪いものではなかったはずだ。
表面上は。
実際にはレナンを陥れようとしたり、そしてレナンの家族を冤罪で処刑しようとしていた事がある。
ナ=バークの者がエリックを拉致しようとしたこともあった。
だが、あの時点ではその間者とナ=バーク国との明確な関係性を見つけることが出来ず、手出しが出来なかった。
「…あそこの女王は俺とレナンを嫌っていたが…まさか直接殺しに来るとは思っていなかった」
会えば必ずエリックを射殺すように見つめていたナ=バークの女王、ミネルヴァ。
軍事国ナ=バークの力はエリックとて軽く見られるものではなく、決定的な証拠を見つけるまでは攻め入られないと、つかず離れず、表面上の付き合いをしていたつもりだった。
「正直あの時何でやられたのかわからなかった、魔法か武器か?」
死ぬ原因となったあの怪我。
女王の手元から放たれた衝撃と熱を思い出す。
しかしあの女王が操るは自分と同じ、氷魔法だったはずだ。
だから熱は意外だった。
そして攻撃を受ける際、自分も二コラも防御壁を張っていた。
それを破ったのだから、どれ程強い力だったのだろうか。
いまだにわからなかった。
「魔法でも、既存の武器でもありませんでした。銃、という武器だそうです」
「銃?」
リオンが言ったのは全く聞き慣れない物だ。
「鉄で出来た銃に、鉄で出来た弾を使うそうです。弾を銃に込め、魔力を送る。そうすると凄まじい威力で発射され、回転し、体に食い込んでいく。弾は何かに当たると破裂をし、対象物を破壊するのだそうです」
「熱さと痛みはそういう事か」
恐らくエリックの体で弾けたのだろう。
思わずあのときの熱を思い出し、お腹を擦った。
「で、女王は殺したか」
「ええ。少し時間がかかりましたが…」
エリックを殺し身を翻して逃げる女王を、あの場で取り押さえることは出来なかった。
追おうとするがナ=バークの者に阻まれる。
それでもニコラが追い詰めたのだが、捕まえる前にエリックの死によって、志し半ばで生命を失ってしまった。
だが、その武器を奪うことは出来た。
すぐに魔道具に詳しいロキにお願いし、調べてもらう。
仕組みをしり、試作を行なった。
時には危険を冒してまでナ=バークに偵察に行き、情報を取ってきてくれている。
それにより元のものよりも高性能な物に仕上げられ、数も増やしてアドガルム兵に与えた。
「魔力がなくとも、火薬で撃てるようにし、訓練を重ねて兵達が万遍なく力をふるえるようにしました」
戦争はナ=バークと、そしてあちらと手を組んだリンドールと行われた。
リンドールの兵力は低いが、ナ=バークから提供された武器を使われ、苦戦を強いられる。
そんなアドガルムに加勢したのは、同盟国パルスと友好国のシェスタだ。
「エリックの弔い合戦、参加するぞ。奥さんも美人だしな」
躊躇う父を押し退け、シェスタ国の王太子であるグウィエンが兵を挙げた。
「大事な友人の為に、そして俺が王になるために助力してくれたエリックのためにも、助力を申し出ます」
パルス国の国王ルアネドもそうして力を貸してくれる。
女王を討ったのはティタンだ。
捕らえてアドガルムにつれて帰るのは危険だ。
本当は皆の前で処刑したかったが、その場で首を斬ることをティタンは決意する。
女王の最期の言葉を耳にしていた。
「何故、兄上を殺した。そんなに憎かったか?」
確執については兄から聞いていた。
だからきっと憎んでの事だったのだろうと、ティタンは疑ってなかった。
「殺したかったのはレナンよ」
その言葉にティタンは面食らう。
ミネルヴァは最後だからと、ただただ言葉を吐いていった。
いくら権力があろうと、手に入らなかった他国の王太子エリック。
それを簡単に奪っていったレナンが憎かった。
権力も美貌も、女王より劣っているはずの女。
人形のように、ただ王太子の責務をこなしていたエリックの頑なな心を溶かし、人間にしてしまったレナンが憎かったのだ。
「彼は私と同じ、王家の人形だったはずなのに」
国と政治に従うしかない女王とエリック、二人はとても似ている。と思っていたらしい。
「勝手に同志にしてもらっては困る」
エリックはため息を吐いた。
うんざりしたが、もしもその気持ちに気づいて、別な方法を取っていたら結末は変わっていただろうか、と考えてしまう。
考えても詮無い事なのだが。
「以前に禍根を残していたハインツとラーラも片しました。ルドとライカが討っています」
ルドもライカも炎魔法が使える騎士だ。
氷魔法を使う二人には相性が悪かっただろう。
最後までハインツはラーラの命を助けようとしていたそうだ。
ラーラがそれを拒み、攻撃を仕掛けてきたことで叶わなかったが。
「もとよりラーラを生かしておくことは出来ませんでしたが、ハインツの最後を思うとやり切れませんね」
愛しいものを守ろうとするハインツの行動は当然の事だ。
だがラーラは大罪人だ。
大規模転移にて、アドガルム国内に女王とナ=バークの兵を送りこんでいる。
そして女王達をナ=バークへと逃亡させるのも行なった。
どう足掻いても見逃せるはずはなかった。
「ナ=バークへ攻め入った時は、ラーラの転移術をロキ様が阻んでくれました。銃の攻撃についても、以前からある防御壁よりも、緻密でより強力な防御壁をリリュシーヌ様が張ってくれたので、戦況はアドガルムに傾いてました。ミューズも怪我人を回復するために力を貸してくれて、死人も少なかったです」
魔力の高い三人は強い戦力となったようだ。
昔しっかりとアドガルムに引っ張っておいてよかった。
「今ナ=バークとリンドールはどうなった?」
「ナ=バークは世代交代させ、軍事解体もさせました。我が国とパルス、そしてシェスタからも人を送り、見張らせ二度と戦争が起きないようにしています。リンドールは我が国の属国となりました」
リオンの言葉におおむね納得した。
「解決したならばいいが、大変であったろう。ありがとう」
ルアネドは会ったのに、恩着せがましい言葉も何も言わなかった。
相当大変であったはずなのに。
恐らくエリックがまだ落ち着いていないからと、余計な話はしないでいてくれたのだ。
本当にルアネドは良い奴だ。
グウィエンもナンパ癖がなければ、友人想いの良い奴だ。
軽口は吐くが強い腕前とカリスマ性を持つ男だ。
国王に逆らい、挙兵するなどどれ程のリスクだったろうか。
改めてお礼を言わねばならない。
レナンをナンパしたことは許さないが。
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