某日 深い悲しみ

「何という事だ……」

やっと到着したティタンは変わり果てたエリックの別邸に暫し呆然とする。


皆同じ思いだ、誰も何も声を掛けられなかった。


ほんの数刻で到着する予定であった、そのほんの僅かな間でこのような惨事、普通ではあり得ない。


「兄上! ニコラ!」

二人の変わり果てた姿に、ティタンとミューズはただただ言葉もなく、見つめるばかりだ。


「申し訳ありません、ティタン様……」

守れなかった不甲斐なさにキュアもオスカーも謝罪しか述べれなかった。


気を失っているレナンに気づき、ミューズは涙を流しながら駆け寄る。


「お姉様、お姉様」

ポロポロと泣きながら、レナンに縋る。


血塗れではあるものの、怪我もなく無事である事に、エリックが命を賭して守ってくれたのだとわかった。


「兄上。あなたは最後までレナン様を……」

ティタンはエリックのまだ温かい手を握る。


血で汚れるが気にしない。


今は泣けない、自分がやるべきことがまだまだある、だからティタンは唇をかみしめて堪えた。


「後はお任せ下さい、だからゆっくりと休んでいてくださいね」

事切れて反応のないエリックの手をそっと戻す。


怒気と覇気が溢れていた。


このまま済ませるわけがない、必ずや報いを受けさせねば。






「まだ負傷者がいる。ミューズ、ロキ殿とリリュシーヌ様に応援を要請してくれ。終わり次第皆の回復に当たってほしい。襲撃者の追撃に気をつけ、複数人で行動せよ! ライカ、マオ、二人にはミューズとセレーネの守りは任せる。ルドは俺と共に邸内を回るぞ、状況を把握しよう。残党がいるかもしれないから十分に気をつけろ」

いち早く頭を切り替えたティタンの元へとリオンも来た。


「ティタン兄様、これは一体どういうことなのです?」


「俺も詳しくはまだわからん。しかし何者かの襲撃を受けたようだ、リオンはアイオスとフィオナの無事を確認してくれ」

甥姪はこの場にいないようだ、上手く避難できてたらいいのだが。


場の混乱は続いていた。


オスカーとキュアでさえ、ショックで立ち尽くしている。


周囲の確認もまだ十分に出来ていない。


「まずは出来ることをしなくてはな。マオ?」

マオの様子がいつもと全く違うのに今気づいた。


「どうして、兄が死ななくてはならないのですか」

マオがポロポロと涙を流して、剣を握っている。


「だから、契約魔法など解けと、あれ程までに言ったのに。これでは復讐も遂げられないではないですか……!」

込み上げる涙が止められない。


「リオン、マオに付き添ってくれ。俺が軽率だった」

身内を亡くしたのはティタンも一緒だが、誰も彼もが気持ちを切り替えられるわけではない。


己が動けるからマオも大丈夫と思うのは間違いであった。


「マオ」

リオンはマオの事を抱きしめ、頭を撫でる。


「兄とエリック様を殺したのは誰ですか! 絶対に、仇をとるです!」


「そうだね、僕も絶対に赦さない。だから今は泣いて。悲しみを押さえなくていいんだよ」

優しくマオを撫で、その悲しみを共有出来たらと強く抱きしめる。


マオとニコラは二人っきりの家族だ。


その悲しみは幾ばくなのか、想像に難くない。







甥姪の無事も確認出来た為、ようやく落ち着いた者達から様々な話を聞くことは出来た。


「ナ=バーク国……ミネルヴァ女王……絶対に許さない」

ティタンは昏い目をしていた。


エリックを殺した事は戦を起こすのに十分なものだ。


すぐにでも態勢を整え、攻め入りたい。


「落ち着け、ティタン。今はまだ早い」


「何を言うのです父上。一刻も早く兄上の仇を取りに行かねば」

噛みつくようにティタンは大声を上げる。


怒りの炎がそう簡単に収まるわけがない。


「気持ちはわかるが冷静さを欠くな。エリックを殺した凶器の正体もわからないのに、何の策もなくナ=バークに攻め入っては殺されに行くようなものだ。エリックや二コラの防御壁も突破するような攻撃だ、対抗策を講じなければ二の舞だろう。」


「大きな音がしたとオスカーは言っていましたね。防御壁が壊れる音とは違うといっていましたが、何の魔法でしょう」

魔法に疎いティタンは想像がつかない。


「どうやら魔法ではなく、武器だそうだ」

アルフレッドは現場にあった武器を取り出す。


「これを何らかの魔道具だろう。こういうのに詳しいのはロキ殿だ。ぜひ協力を仰ぎ、どのようなものだったか知りたい」

愛息子の命を奪ったものだ、本当は今すぐにでも叩き壊したい。


だがそう言うわけにはいかない、今後に生かすために徹底的に調べあげ、ナ=バークを滅ぼしてこないといけない。


それがエリックに対して出来る唯一の事なのだから。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

目覚めたら死んでから10年経っていた、まずは国に帰ろう しろねこ。 @sironeko0704

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ