第14話 深い霧の中で


主人公=泣き虫ドラゴン

(アフリカで生まれて、サバンナで暮らす若いドラゴン)



「ありがとう、泣き虫ドラゴン、おかげでわたしは、自由になれた。

君も、ついに空の響を手に入れたね。

これからは、どんな鳥よりも、高らかに歌うことができるし、

遥か遠くのものとも話ができるよ」


呼び鳴き鳥は、そう言うと、空高く舞い上がりました。



山腹をかすめるように飛んでいった呼び鳴き鳥が、

木に火をつけたかと思うと、一瞬にして、雨を降らせて火を消した姿が、小さく見えました。


泣き虫ドラゴンは、ふたたび、山を登りはじめました。

陽が沈むと、岩間で体を伸ばして、眠りました。

また朝になり、夜が来て、数えきれないほど月日が過ぎていきました。……


そんなある朝のこと、泣き虫ドラゴンがいつものように山を登り続けていると、

まわりに、霧が立ち込めてきました。

それでも泣き虫ドラゴンは、ずんずん進みました。すると、あっという間に霧が深くなって来て、周りが見えなくなってしまいました。


泣き虫ドラゴンは、もう、一歩も動けません。

これは困ったことになったぞ、と泣き虫ドラゴンは首をうなだれましたが、


不意に何かを思いついたように、気を取り直して、一声鳴きました。


「僕は泣き虫ドラゴン。誰か僕の声が聞こえますか? 」


すると、空から声が聞こえてきました。


「はいはい。あんたの声は、聞こえたよ」


「あなたは、どなたですか? 」


「あっしは、オオワシでさぁ」


「僕は、泣き虫ドラゴン。霧が深くて動けないのです。

キリマ山の頂上へ行くのに、どうか力をかして下さい」


「そうかい。助けてやりたいのは、やまやまなんだか……

こう霧がふかくちゃあな。お前さんが見つけられんよ」


「大丈夫です。声で、わたしのいる所をお伝えします。

そして、あなたがキリマ山の頂上の方向へ飛んで頂ければ、

あなたの翼が風を切る音をわたしが見つけますから」


「ほっほぅ。面白い。そんなことを頼まれたのは、初めてだ。

いっちょう、やってみるか」


その声を聞いた泣き虫ドラゴンは、空に向かって鳴きました。


「ジョルディール。ジョルディール」


「ほっほぅ。たしかに聞こえたぞ。さあ、こっちだ、こっちへすすめ!」


空を切るオオワシの翼の音が、東の方角から、

泣き虫ドラゴンの耳にハッキリ聞こえました。


泣き虫ドラゴンは、深い霧の中、

翼の音を追って、また山を登りはじめました。



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