第25話 泣き虫ドラゴンの歌
主人公=泣き虫ドラゴン
(アフリカで生まれて、サバンナで暮らす若いドラゴン)
ふたたび、泣き虫ドラゴンを、濃い霧がおおいました。
その時、かすかな風の音がしました。
いえ、それは泣き虫ドラゴンの声でした。
いよいよ歌が始まったのです。
遠くから、ドラミングを終えたばかりのゴリラの先生と、
地に舞い降りた呼び鳴き鳥が、かたずを飲んで見守っています。
泣き虫ドラゴンは、空から、メロディを捕まえようとしているようです。
空を仰いで、ハミングを続けます。
ハミングは、あらゆる音を奏でながら、変化し、
流れ星のように、一瞬の時に、光ながら流れて行きました。
風のそよぎ
霧の舞い
舞い上がる翼~
上昇気流
空間の柱
行き返り花咲く生命(いのち)
星たちの花園~
きらびやか
その一つ
その一つぶ
その結晶
彩り
虹
消えゆく間に~
泣き虫ドラゴンは、今度は、首をうなだれ、下を向きました。
まるで、チューニングをしているかのように、低い音を奏で始めました。
草の原
風
土の匂い
地面を転がるフンコロガシ
アリ塚
土を駆ける足音
水浴びする獣たちの声
サバンナ
ジャングル
暗闇で光る目
月光を浴びるしなやかなシッポ
しじま
悲しみの奥
生命力
虚ろの中
ひしめきあう魂
夢見心地と
現実的存在
ざわめき
感覚
波立ち
運命
高鳴り
たまゆら~
響き……
天と地の……
そこで、泣き虫ドラゴンは、一息ついて、ゆっくり顔を起こしました。
どうやら、長く続いたチューニングは、終わったようです。
泣き虫ドラゴンをおおっていた霧も、いつの間にか消えていました。
泣き虫ドラゴンは、ふたたび、キリマを見つめました。
口元から、あふれ出しそうなメロディを必死でこらえながら……
―――やがて、泣き虫ドラゴンの歌声は、堰を切ったように溢れ出しました。
なめらかで豪快に
力強く優しさにあふれ
光さす美しさと
影や闇の手ごたえと
繰り返す生と死
地球の大循環
泣き虫ドラゴンは、歌いました。
空と地の響き……のままに。
泣き虫ドラゴンは、歌い続けました。
空と地の響き……の、あますところなく。
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