第15話 氷上のクジラ


主人公=泣き虫ドラゴン

(アフリカで生まれて、サバンナで暮らす若いドラゴン)



泣き虫ドラゴンは、オオワシの翼の音を追って、

ずんずん進みました。


周りは、真っ白な深い霧でしたから、岩につまずいたり、濡れた登り坂をずり落ちたりは珍しいことではありませんでした。


それでも泣き虫ドラゴンは、ひるまず、登り続けました。


闘志を燃やす、という言葉が、

今の泣き虫ドラゴンには、ぴったりかもしれません。


何しろ、鼻の頭に、トンがったサボテンのトゲを、

五本刺しても、登り続けたんですから。


もちろん、泣き虫ドラゴンは、ありったけの声をあげて、飛び上がりましたよ。


それで、オオワシが心配して、思わず、


「だんなぁ、死んじまったんですかぁ?」


なんて、聞いてしまったのも、無理はありません。


それほど、物凄い声が、霧の中から、聞こえてきたんです。


その時、泣き虫ドラゴンが、


「ジョタヘリョ~ル」


と鳴いてしまったことだけは、君だけの秘密にしてください。



そうこうしながら、日も暮れる頃、泣き虫ドラゴンは、

とうとう霧のトンネルから、抜け出すことができました。


視界が広がり、泣き虫ドラゴンの目に飛び込んで来たのは、

氷ついた大きな湖でした。


泣き虫ドラゴンは、空を見上げて、オオワシにお礼を言いました。


「なあに、お安いご用でさあ」


オオワシは、そう言うと、翼をひるがえして、

今来た方角へ戻って行きました。


そんなオオワシを見送りながら、泣き虫ドラゴンは、歌を歌いました。

不思議なことに、歌は自然と口からついて出てきました。


初めて歌う歌なのに、何度も口ずさんだ歌のように

なつかしい気持ちになりました。


その時です、湖の真ん中の氷が大きく盛り上がりました。

まるで、氷の山が一瞬にして、そびえたったかのようです。


次の瞬間、目を疑うような光景を泣き虫ドラゴンは目にしました。

氷の山が大きな魚に変わり、宙に飛び上がり、ひるがえったのです。


ふたたび、氷の湖に体が落ちると、地を這うように地鳴りがとどろきました。

泣き虫ドラゴンは、恐る恐る氷の湖に近づいて行きました。


ふしゅーっ、という息づかいと共に、氷シブキをあげて、

氷の上に顔を出したのは、まぎれもない、大きなクジラでした。



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