第5話 サバンナを駆け抜けてゆく一陣の風


主人公=泣き虫ドラゴン

(アフリカで生まれて、サバンナで暮らす若いドラゴン)




ドラゴンはゆっくりカバを食べはじめました。



賢い君は、もう気がついたことでしょう。

なんてズル賢いドラゴンなんでしょう。


こんなドラゴンが泣き虫ドラゴンのはずがありません。


「ああ、うまいうまい。久しぶりにカバにありつけたぞ。

この調子で、ライオンの奴も食べてしまおう」


隣の沼のドラゴンが、岸辺でガツガツとカバを食べていると、

ふいに後ろに気配がしました。


そこには、たてがみを逆立てた、物凄く怒った顔のライオンが立っていたのです。

ライオンはそのままプイッと後ろを振り返り、行ってしまいました。



やがて、泣き虫ドラゴンが沼に戻ってきました。



泣き虫ドラゴンは、サバンナの西のはずれのバオバブの木の下に行ってみましたが、

誰もいませんでした。


泣き虫ドラゴンは、待ちました。


星が流れて、朝になり、お日さまが昇り、西の空が真っ赤に染まりました。


とうとう誰も来ませんでした。



泣き虫ドラゴンが、あきらめて沼に戻ると、

マブシイほどの月明かりに照らされて、カバが倒れているのが、目にとまりました。


お腹は、ポッカリ穴が空いて、なくなっています。


泣き虫ドラゴンは、驚きました。

いったい何があったと言うのでしょう。


泣き虫ドラゴンは、悲しくて鳴きました。


「ジョルディール。ジョルディール」


泣き虫ドラゴンの声は、サバンナ中に、響き渡りました。


「ジョルディール。ジョルディール」


あらゆる動物たちが目を覚ましました。


「ジョルディール。ジョルディール」


泣き虫ドラゴンの悲しみは、おさまりませんでした。


「ジョルディール。ジョルディール」


一陣の風が、サバンナを駆け抜けました。


「ジョルディール。ジョルディール」


泣き虫ドラゴン鳴き声は、お月さまに吸い込まれて行くようでした。


「ジョルディール。ジョルディール」


ふいに泣き虫ドラゴンの後ろで、物凄い勢いで、

何かが近づいてくる足音が、聞こえました。


泣き虫ドラゴンは、思わず、後ろをを振り向きました。


ヒュンと何かが月夜へ飛び上がり、泣き虫ドラゴンのシッポの上に着地しました。

泣き虫ドラゴンのシッポに、しびれるような痛みがはしりました。


見ると、怒った顔のライオンが、立っていました。

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