第24話 いきなり大きな話に

 しかも、賢治は途中段階でも完成度の高い原稿を書いています。

 すべての作品がそうなのかはわかりませんが、賢治は手帳や反故紙にメモを作成して作品を練り、原稿として書くときにはすでに完成度の高い状態で着手していたらしいのです。

 その手帳に記した「メモ段階の草稿」でもけっこう完成度は高い。

 たとえば、いま賢治の代表作になっている「雨ニモ負ケズ」は手帳に書いたメモそのものです。この「雨ニモ負ケズ」が載っている手帳には、ほかにも完成度の高い詩が何篇か載っています。

 そうなると、賢治は、最初のメモ書きの段階から「完成稿」で通用する完成度の高い状態で作品を書くことができた、ということがうかがえるわけで。

 これはやっぱり天性の才能なんだろうと思います。

 もちろんすべてがそうというわけではなく、書き始めたものの途中で止まってしまったらしい作品もあります。また、かりに「これはダメだ」と判断して完全に破棄していたらそれはまったく残っていないわけで、そういう作品もあっただろうと推測はできます。そういうボツ作品の裏紙がほかの作品に使用されてたまたま残っている例もあります。

 ただ、それでも全集が何冊もできるくらいの原稿が伝存しているわけですから、賢治は、書き始めた作品の原稿は、途中で書くのを放棄したり、完成度が十分でないと判断したりしても、基本的に持ち続けていた、と考えてよいでしょう。

 そして、折りに触れて見直して原稿に手を加えていたのです。

 賢治のばあい、原稿はいったん完成したらそれで終わりではなく、手を加え続ける、それを、何年にもわたって、何作もの作品について続けるということをやっていました。未発表のものはもとより、発表した後も手を加え続けていました。

 それはなぜか?

 いきなり大きな話になるのですが。

 私はそれは賢治の死生観と関係していると思っています。

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