第14話 校本の判断材料
ところで、校本全集は、基本的に筆跡と筆記具、とくに使われているインクで「直し」の前後を判定しています。インクの文字が原稿のどの紙に写っているかも手がかりになります。
これは、賢治が、原稿を書いたり直したりするのに、そのとき手近なところにあった筆記具を使っていたから可能だったこと、少なくともやりやすくなったことです。そのたびに手近な筆記具を使っているので、使っているインクが黒だったりブルーブラックだったり青だったり、ときには赤だったり、また鉛筆だったりするのです。
ずっと同じペンと同じ色のインクを使っていたら、校本全集で行われている判別は、完全に不可能ではないにしても、ずっと難しくなっていたでしょう。
また、賢治が一つの作品を直すときには、短時間で集中して直していたらしい、ということもあります。だから、同じ筆記具で行われた「直し」が同時期に行われた、という推定が可能なのです。
使っている原稿用紙も重要な手がかりです。同じ時期の同じ作品には基本的に同じ用紙を使うので、その用紙が使われている部分は基本的に同じ時期の成立と考えることができます。また、裏紙を使っているばあいには、裏側は他の作品のボツ原稿や草稿であることが多い。ですから、その部分は、そのボツ原稿や草稿が書かれた後に書かれた、という推定が成り立ちます。
ちなみに、「銀河鉄道の夜」の最初期の原稿の一部は、関東大震災被災者へのお見舞いの草稿の裏に書かれているので、「銀河鉄道の夜」が書き始められたのが関東大震災(一九二三年九月)より後とわかります。前回触れた「
あと、原稿に綴じ痕があるかどうかも判断材料になります。当時は基本的に綴じ紐で原稿を綴じていましたから、綴じるときには原稿に孔を開けることになります。その孔の場所が一致すれば、ある時期にいっしょに綴じてあった原稿、ということになります。その綴じ痕がない用紙は、それとは別の時期、たぶんそれよりも後に書かれた、ということです。
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