第4話 校本全集の特徴

 この校本全集は、賢治が消しゴムで消した痕跡まで読み解いて復元して本文を検討する、という徹底した作業で作成されました。

 現在ならば光学技術やIT、なんならAIまで駆使しての作業ができるのでしょうが、当時は基本的に虫眼鏡で眼視で、という作業です。たいへんな作業だった、ということが伝えられています。


 また、校本全集は、賢治がボツにした箇所もすべてなんらかのかたちで掲出し、途中段階でいちおうまとまった原稿になっていたらその状態も復元する、という方針で作られています。


 校本全集の編集過程で、「銀河鉄道の夜」では、現在の確定本文は「第四次稿」だということが明らかになりました。つまり、三回めの(全体を通しての)手直しの結果です。

 校本全集では、ほかに、「第一次稿」と「第二次稿」が部分的に(賢治が破棄して書き直した部分があるので、破棄された部分は残存していない)、「第三次稿」はほぼ完全に復元されいます。


 なお、現在は、もういちど原稿から検討をし直した「新校本全集」が出版されています。

 新校本全集は校本全集のマイナーチェンジ……と言ったら、その精密な作業にもういちどチャレンジされた編集のみなさんにはとてもとても申しわけないのですが。

 校本全集のときにかなり精密な作業をしているので、校本全集から新校本へと根本的に大きく変わった、という作品はあまりありません。もちろん、新しくわかったことを反映して、その時点での「最新の校訂」にはしているのですが(「校訂」は、このばあい、原稿を検討して本文を定めることです)。

 校本全集でのもとの作業がそれだけすごかった、ということで。

 なので、ここでは、校本全集・新校本全集を「校本全集の系統」としてひとまとまりにして扱います。


 現在の宮沢賢治作品はほとんどこの校本全集・新校本全集を基礎にしています。

 「銀河鉄道の夜」も例外ではなく、谷川徹三版を除いて、校本全集・新校本全集系をもとにしたヴァージョン(校本全集・新校本全集の「第四次稿」)が刊行されています。角川文庫、新潮文庫、ちくま文庫などはすべてこの系統です。

 ちなみに、猫のキャラクターのアニメ映画(杉井ギサブロー監督)もこの校本全集版をもとに作られています。

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