第2話 全集の出版と原稿の状態

 宮沢賢治が亡くなった直後から、宮沢賢治の全集の出版が始まりました。


 ちなみに、賢治は「生前にはまったく無名だった」と表現をされることがあります。

 たしかに、現在の超有名ぶりと較べると無名と言ってもいいくらいではあります。しかし、それでも、まったく無名の作家が亡くなったからといって、生前に発表された作品に未発表作品も加えて全集を作ろう、なんて話が出るわけはなく。

 詩人のコミュニティーでは「斬新な作風の詩人」として知られてはいたのです。そして、賢治の逝去せいきょを惜しんで、「全集を作ろう」と動いたひとが何人もいたのですね。


 もちろん全集が出たのはいいことなのですが。

 おそらくこの最初の全集出版の作業のときに、原稿の順番がわからなくなった作品がいくつかあります。

 全集の編集者が「原稿はこういう順番だろう」と推測して並べ直して印刷したので、もともとどういう順番に並べてあったのかがわからなくなってしまったのです。

 たとえば、初期の短詩集『冬のスケッチ』は、収録されている一つひとつの詩ですら、途中でどこからどこへつながっていたかがわからなくなった状態で原稿が残っています。最初の状態に戻そうとしても、戻すための手がかりがないのですね。だから、現在は、この作品はもう「オリジナルのかたち」での出版ができなくなっています。

 また、晩年の詩集『疾中しっちゅう』(「疾」は病気のこと)は、詩の途中で切れているという例はないですが、やはりどういう順番で詩が並んでいたかがわからなくなっています。賢治は、この『疾中』は、もともと表紙もつけてまとめていました。したがってそのかたちでの出版を考えていたのだろうと思うのですが、その表紙をつけた状態での詩の順番がわからなくなっているのです。


 「銀河鉄道の夜」は、ストーリーがあるのと、一部には賢治がノンブル(番号)を振っているのとで、どこからどこへつながっているかがまったくわからない、という状態よりはましなのですが。

 それでも、ストーリーの切れめのところで用紙が変わっていると、「どこからどこへつながるか」の手がかりがなく、それをどう「復元」するかで、いくつもの案ができてしまう、という状態でした。

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