第32話

なんだかんだあったがついに出発の時が来た。


飛行機の出発時刻は朝の9時なので、手続き等を含めて8時頃には空港に着かないといけない。


「じゃあ出発するぞ、スーツケースちゃんと持ったか?」


「うん!!いや~、この日をどれだけ待ちわびたことか・・・」


そうだなと俺は頷き、家を出た。


空港に到着してすぐに俺は花園先生と合流し、手続きを済ませた。


「飛行機乗るの久しぶりだね、お兄ちゃん!!」


「そういえば、最後に乗ったのって俺が中学生のときか。」

そう言いながら俺はあの忌まわしい旅を思い出した。


「へ~、どこに行ったんですか?」


「ハワイ。」


「お~、良いですね!!羨ましいです!」


「いや、それがそうでもないんだよな・・・」


「何かあったんですか?」

せっかくリゾート地に行ったにもかかわらず不満そうな顔を浮かべている俺をいぶかしく思いながら彼女は俺に詳細を尋ねた。


「99%の確率でクジラを見ることができると謳っているホエールウォッチングに参加したのにクジラを1頭も見ることができなかった。海で泳ごうとしたらクラゲに刺された。火山が噴火した・・・・・・・・・」


「あ~、そ、それは残念でしたね・・・・」


「でもお兄ちゃんはそんなこと言ってるけどご飯は美味しかったし、海も綺麗だったから結果的には良い旅だったと思うんだけどね!」


「確かにな、今振り返ってみると良い旅だったと思うよ。」

そう俺は呟いた。

天舞音に言われたからではなく、ただ少し自分の中で思い出が美化されただけなのだが、天舞音は俺の顔を見てニコニコしている。


そんな昔話を終えたところで俺たちは飛行機に搭乗した。

席は窓側で一番窓から近い順に花園先生、俺、天舞音の順番だったのだが天舞音が窓側が良いと言い張ったため天舞音、俺、花園先生の順番に座った。


フライトは大体1時間と30分ほどだったので俺は少し寝ることにした。

どうせ沖縄に着いたら1日中思いっ切り遊ぶのだから少しは体力を温存しておいたほうがいいという俺の判断からそうしようと決めた。

しかし、昨日は結構早めに寝てしまったためかなかなか寝付けなかった。

仕方なく天舞音や花園先生と雑談でもして時間を潰そうかと考えた。


ちらりと左隣を見ると、天舞音は昨日の配信の疲れもあってかぐっすり眠っていた。

一方、右隣の席に座っている花園先生はタブレットでイラストを描いていた。


「それ、何のイラスト?」と俺は聞いたのだが、彼女は俺が起きていることに気づいていなかったのか驚いてタブレットを隠してしまった。


「え~と、その・・・いや、これは・・・なんでもないです。」

妙におどおどした様子を見せる彼女はなんでもないといったものの、実際に描いてあったのだから何かはあるだろう。


「いやいや、別にそんな恥ずかしい物でもなでしょ!まず俺たちイラストレーターとVtuberなんだし、自分たちの活動内容をお互いに教えてあげるのも良いんじゃないか?」


「で、でも、さすがにこれは・・・」


「え、なんかそんなにマズイものなのか?」


「え~と、その、マズイというか、なんというか・・・」


「あ~、少し過激なやつね!大丈夫だよ!別にそんな偏見ないから!!」

俺がそういうと、彼女は少し落ち着いて俺にタブレットを見せた。


そこにあったのは複数枚のイラストの原稿・・・いや、漫画だった。

なんだろう、これ、どこかで見たことがある。

いや、はっきり見たことあるというより、タイトル、展開に既視感があった・

その漫画を読みながらスクロールしていくと、ようやくその漫画の正体が発覚する。


エロ同人だ・・・

「ど、どうでしたか?」

花園先生に声をかけられたことで俺は我に返ることができた。


「えーと、すごいですね・・・」

もちろん内容も絵もすごく良かったのだが、なぜこんなにも清楚な彼女がエロ同人を描いているんだろうと思ってしまった。


これは偏見かもしれないが、こういうのってもっとオジサンが描いているものだと思っていた俺にとって彼女のそれは衝撃だった。


それから、俺と花園先生の間は少し気まずくなってしまいこれ以上機内で会話することは無かった。


そして、気が付くとあっという間に飛行機は沖縄に到着した。

飛行機が着陸してすぐ、天舞音は目を覚ましてこちらを見てきた。

なぜか、彼女は俺と花園先生の挙動がおかしいことに気づき、こちらを見て言った。


「お兄ちゃんと花園さん飛行機の中で何かしたの?」

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