第29話

買い物の後、俺たちは俺の部屋に集合した。


「それじゃあ勉強会始め〜!!」


天舞音の掛け声とともに勉強会(笑)が幕を開けた。

案の定、天舞音と花園さんは勉強を始める前にソシャゲのガチャの沼に片足を突っ込み始めた。


どうやら最近2人がハマっているソシャゲが周年イベントを開催したようで、その時に新しく追加された限定キャラを入手するために彼女達は多額のお小遣いを課金に注ぎ込んでいるそうだ。


「あー、ヤバい!星5確定演出来たのに限定キャラ出なかった〜!!」


「こっちは天井すり抜けた〜!!」


まだ幼い少女達の悲鳴が俺の部屋の中に響きわたる。


この3人の中で唯一真面目に勉強していた俺であったが、流石にこんな騒がしい状況でそれを続けるのはもはや不可能だった。


「あぁぁ〜!!!もうちょっと静かにしてくれないか?できないなら俺の部屋から出て行ってくれ!」


「え〜、お兄ちゃんもガチャ引いたら良いじゃん!!」


「そうですよ!大和川君もこのゲーム始めたら良いじゃないですか!!今なら石大量に貰えますよ!」


「いや、お前ら・・・俺たち何のためにここに集まったか忘れたのか?」


そう言って俺は彼女たちが部屋の隅にほったらかしになっている参考書や問題集を彼女たち目掛けて放り投げた。


「勉強なんか後でやれば良いじゃん!やっぱり"今“が大事だよ!!」


「マジかよこいつら・・・」

テスト期間だというのに全く勉強する素振りを見せない彼女たちに俺は戦慄した。


まあどうせ天舞音に関してはいつも通り直前にやるだけで平均点くらいは余裕なのだろうが、花園さんはどうだろうか。


想像がつかなかったので一応聞いてみることにした。


「花園さんは普段成績どんな感じなんですか?」


「え、私ですか?う〜ん、そうですね・・・だいたい10番前後くらいですかね?」


「え・・・・」


まさかの事実に俺は驚愕した。

どうしてこういうタイプの人間は揃いも揃って天才なんだろうか・・・


「いや、そんな驚かれても・・・私本当に勉強無理なんで!」


「でも特進のトップってS特の真ん中あたりに相当するんじゃないか?」


「え?いや、その・・・」


花園さんは何が動揺しているようだった。


「どうかしました?」


「いや、その〜、10番前後っていうのは上からじゃなくて・・・下からなんですよ・・・」

彼女はただ申し訳なさそうに言った。


「・・・・じゃあ勉強始めますか?」


数秒の沈黙の後、俺はそう彼女に尋ねた。


彼女もコクリと頷き、俺と花園さんの2人で勉強会を再開した


天舞音はというと・・・


「よっしゃ!これで完凸した〜!!」

と、ずっと沼にハマっていた。


そして、2時間くらい経った後、勉強会は無事終了し、花園さんは帰っていった。


「お兄ちゃん!見て見て!私今回の新規限定キャラフルコンしたよ!!」


「さすが・・・だな・・・」


俺は自分の妹の狂気じみた言動に若干引きつつも、心の中では今までずっとガチャを引き続けた忍耐力と集中力に感嘆していた。


「じゃあ私そろそろ勉強始めてくるね!!」


「お、おう・・・」


そう言って天舞音は自身の部屋へ戻っていった。


時計の針は既に17時を過ぎていた。

うん、遅い。

明らかに勉強を始めるのが遅い。


まあそれでも成功するのだから羨ましい限りである。

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