第35話(第一部最終話)
数年前にデビューした個人Vtuber。
そんな彼女の個性は厨二病キャラだ。
この個性が功を成し、今では大手企業Vにも引けを取らない人気を誇っている。
「あ、はい。存じております…」
「そうなのか!?いや〜、私も有名になったものだな〜!!そうだ、まだ君の名前を君の名前を聞いてなかったね?」
「影人闇と申します。まだそんなに有名じゃないのでご存じないかと思いますけど…」
俺は恥ずかしく思いながらも自分のVとしての名前を伝えたのだが、その瞬間彼女がその名を聞いて驚いているのを感じた。
「ふむふむ、
「え、フォローしてくれたんですか!?あ、ありがとうございます!!」
そう少々大きな声で言いながら俺は深々とお辞儀をした。
大先輩にアカウントをフォローしてもらえたことに俺の心は歓喜に満たされた。
「しかしまあこの企業V全盛期の時代に偶然個人V同士がバッタリ会うなんて珍しい事もあるんだね。これも何かの縁だ。今晩一緒にご飯なんてどうかな?」
マジか。この人初対面の人に警戒心無さすぎじゃないか?と思うのだが…
確かにここは彼女のお言葉に甘えるのが良いだろうが、天舞音達がいるし・・・
「どうしたんだい?あっ、もしかして彼女と一緒かのかな?」
「いや、その…お言葉に甘えたいところなんですけど、妹と友人が一緒なんで…どう説明したら言いかと…」
「なるほど、じゃあ今あったこと全部説明しといても良いよ。私企業Vじゃないから身バレなんてそこまで気にすることは無いし。」
なんだろう、この人・・・凄く優しい。
「わかりました。えーと、どこのお店ですか?」
「えーと、ここのステーキハウスなんだけど…7時にここで大丈夫?」
そう言って彼女は俺にマップを見せた。
「あっ、はい!わかりました。」
行けるようだったらDM解放しておくからDMしてたまえと彼女は言って部屋に戻って行った。
それにしても急すぎる展開に俺の脳は追いついていなかった。
それでもカクカクシカジカと状況を天舞音達に伝えたことで自分でもようやく状況を理解できた。
彼女達は玄野さんと食事をする分には別に構わないと言っていたので俺は彼女に大丈夫だという旨のDMを送った。
そして、約束の7時。
俺たちはステーキハウスに到着し、店の中で待っていた玄野さんと合流した。
「妹さんと、その友人…かな?初めまして、私は玄野凛音という名前で活動している者です。今回は勝手にも食事に誘ってしまってすまない。」
「別に構わないですよ!」
「そうですよ!しかも有名Vtuberの方なら断る理由も無いですし。」
二人は最初こそ少し緊張していたが、歳の近い同性ということもあってか、次第に打ち解けて行った。
もちろん料理も美味しかったのだがそれ以上に俺は彼女の話に興味があった。
デビュー当時の苦い経験、人気が出てからの話、コラボ企画の時の炎上、やらかしまで。
やっぱり経験者は違った。
もちろん天舞音もVtuberとして絶大な人気を誇っているのだが、その実績は少なからず企業のサポートがあったからこそ成し得たものである。
それに対し、玄野さんは独力である。
彼女は何もかと自分で決めて来た。
キャラデザ、設定、配信の内容、イベントとまで…
数々の畏敬に値するエピソードに俺は言葉が出なかった。
しかし、とてもタメになる話はご飯を食べ終わると同時に終わりを迎える。
「まあだいたい私の話はこれで終わりだ。最初は苦労ばっかりだったが今は毎日を楽しんでいる。いや、むしろ最初っから楽しかったけどそれにすら気付けないほど未熟な自分がいたのかも知れない。そうだ、今度は君の話を聞かせてくれ。君の物語をまあまだエピローグには早過ぎるだろうけどね…」
俺は語った。
影人闇が生まれてから今までを。
隣にいる2人と一緒に辿った短くも楽しい時間を…
俺が彼女に語り終えた時、彼女は俺にあることを告げた。
「ありがとう。とても良い話だったね。いかにも高校生らしい青春物語だ。ところで、話は変わるんだが、君に良い提案があるんだ。私は最近、個人Vtuberだけのグループを作ろうとしていてね。私が選抜したメンバーを中心にオーディションをするつもりだ。そこで君も参加しないか?ということなんだが…どうだい?悪い話じゃ無いだろう?」
「あの〜、ありがたい話なんですけど、さっき俺が言った通り俺はそういう人の力を借りるような形で有名になりたく無いんです。」
この手の話はキッパリと断ると心の中で決めていた。
しかし、彼女は続けた。
「いや、別に私の名前で君の活動をサポートしたりはしない。それは君の自由だ。ただ私は君を、私の『NextStage』のサーバーの幹部ユーザーにしたいだけだよ。」
俺にはこの人が何を言っているのかさっぱりわからなかったのだが、天舞音は驚きを隠せない様子で口を開いた。
「玄野さん、あなた、『NextStage』のサーバーの幹部ユーザーなんて重役、どうやって与えるの?まだサーバーは日本のVtuber大手企業2社と1人の個人、それとアメリカ、韓国、中国の企業しか持ってないのに…」
「天舞音ちゃん、詳しいね。でも、その1人の個人、私なんだよね。」
彼女は少し照れながら答えた。
「そんな、いったいいくら払ったらそんな…」
「あの〜、お話中失礼します。『NextStage』って何ですか?」
全く話の内容がわかっていなかったのは花園先生も同じだったようだ。
「『NextStage』はもうすぐアメリカのベンチャー企業がサービスを開始するVtuber専門のSNSで、そこでは加速するVtuber人口の増加と配信の多様化、将来のVR技術の進歩に合わせて様々なサービスが提供されると期待されている。特に面白いのは全部で10あるサーバーにはそれぞれリーダーユーザーとその補佐を務める幹部ユーザーがいてね、彼らはそのサーバー内を政治家の如く統治できる。」
「つまり、大和川君はその幹部ユーザーの1人に?」
「いや、今はまだ幹部ユーザーの候補だ。ある程度絞ってから正式にオーディションをするつもりなんだが、その為に彼にやっておいてもらいたいことがある。」
「それは一体何ですか?」
「簡単だ。Youtubeのチャンネル登録者を1万人以上にして欲しい。ただそれだけだ。」
「それだけですか?」
「いや、最終のオーディション以外で私が出した条件は2つあってね、片方はチャンネル登録者数1万人越え、もう一つは私に選ばれること。つまり君はもう既に私に選ばれている。後はチャンネル登録者数を増やすだけだ。」
「なるほど、けどその幹部ユーザーになって何か良いことあるんですか?」
「良いことしかない。恐らくこの『NextStage』がサービスを開始してからはYoutubeを始めとした多くの動画配信サービスが衰退することが予想される。しかも『NextStage』に移行しても、幹部ユーザーに成れなければリーダーユーザーになる権利は与えられないし、一般ユーザーからリーダーになるシステムも存在しない。つまり、幹部ユーザーにならないと
「・・・・・」
最高のVtuberになる。
その夢は幹部ユーザーにならないと叶わないということか…
それを悟ってしまうと、声も出なかった。
「仕方がない、時代の流れだ。けど、君は運が良い方だ。まだ幹部ユーザーになる可能性が残されている。」
そうだ、俺はまだ運が良い。
まだチャンスがある。
前に進む権利がある。
「わ、わかりました!なってみせます!!『NextStage』の幹部ユーザーに!!」
「良い声だ。楽しみにしてるよ。」
玄野さんはそう言うと、笑顔を見せた。
子供の成長を見守る親のような笑顔だった。
「あと、条件の締切は来年の4月まで、『NextStage』のサービス開始は再来年の4月だ。つまり、今年度中にチャンネル登録者数を1万人して、そこからは受験勉強に勤しんでくれ。浪人したくないだろ?」
「そうですね。」
最後は二人揃って笑ってしまった。
まあ俺は苦笑いだったのだが。
「じゃあ、今日のお話はここまでだ。楽しかったよ。じゃあまた、オーディション会場で待っているよ。」
「はい!」
そんな感じで俺と玄野さんはまたオーディション会場会う約束を交わした。
そして、またいつもの3人だけになった。
「なあ天舞音、大手の企業Vはこれからどうするんだ?」
「『NextStage』のこと?」
俺は頷いた。
「さっきも言ったかもだけど大手の事務所だとサーバー買い取ってるから大丈夫だよ!」
それを聞いて俺は少し安堵した。
「でも時代の変化ってすごいですね。特に大和川君には影響大ですよ。」
花園先生がそう嘆いた。
「そんなこと言ったら花園さんみたいなイラストレーターもAIのせいで仕事減ってるんじゃないか?」
「痛いところ突いてきますね、大和川君は…」と彼女は俺を睨んできた。
「まあでも、暗い未来ばっかり考えない方が良いんじゃない?それよりも明日海行くんだから、何やるか決めようよ!!!私はバナナボート乗る!!」
そう天舞音が今まで充満していた嫌な雰囲気を払拭させた。
「確かにな!じゃあ俺は浜辺でかき氷食べとくわ!」
「え、大和川くん、せっかく海行くのに何もしないんですか?」
「そーだ!そーだ!泳ぎなよお兄ちゃん!!」
「わかったよ。泳げば良いんだろ、泳げば!」
そんな会話をしながら俺たちはホテルに戻って行った。
俺の妹は最大手所属のチャンネル登録者数150万人超えの大人気Vtuber!!そんな彼女は超底辺個人Vtuberの俺が大好きだそうです。 鯉王 @koiousama
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