第23話
翌日、俺たちはいつものように学校へ向かったのだが、昨日までの噂が嘘だったかのように皆はいつも通りの様子だった。
もしかしたらそういう話が一時的に表面化してきていなかっただけなのかもしれないが、それでも俺からすれば良かった。
この日は花園先生も仕事の関係で放課後は忙しいらしく、俺は家に直行した。
試験までもう残り1週間と4日。
正直余裕は無い。
なぜならVtuberをやっている時点で毎週約7時間が配信に費やされる。(あくまで俺の場合だが)
さらに俺は3日後に立ち絵のリニューアルを控えている。
つまり俺は今週、マジで忙しいのだ!
だからこそ今日のような自分だけの時間をとれる日はできるだけ勉強に捧げなければならない。
が・・・・
いざ勉強を始めてみると、1時間もすれば集中力が低下して別のことに興味が寄るものである。
気づいたときには俺はスマホを片手にベッドで動画を見ていた。
最近のお気に入りは有名Vtuberの切り抜きなのだが、特にテルル【Vtuber切り抜き】チャンネルの動画は格別だった。
まず何といっても編集力が段違いだ。
正確すぎるテロップとトリミング、動画内容にマッチしたBGMはもちろんのこと、切り抜き動画のための面白い素材を発見するセンスを持ち合わせているのがこのテルルさんだった。
数カ月前に天舞音の切り抜き動画も投稿していたため、天舞音もこの切り抜き師のことを認知していたのだが、内容がいつも面白いためか本人もその動画が気に入ったようで彼女もテルルさんのファンになっていた。
いつか自分の切り抜き動画も作って欲しいという願望はあるのだが・・・果たしてそこまでビッグになれるのやら。
そんなことを考えていると、天舞音が俺の部屋のドアをノックした。
「入ってきていいぞ!」と俺が言うと、天舞音はタブレット片手にこちらに来た。
「見て見てお兄ちゃん!!今日もテルルさん私の切り抜き動画投稿してくれたよ!!」
「おー良かったじゃん!俺も後で見ておくよ!」
また天舞音は切り抜き動画を投稿してもらったらしい。
羨ましい限りである。
そう思いながらも俺は天舞音の切り抜き動画を見てみることにした。
タイトルは【『【衝撃】好きなジャンルを暴露した琴音たん!!』だった。
なるほど、内容は昨日の配信らしい。
確か性癖がどうとかいう話をしていたときに琴音が自分の好きなやつについて語っていた。
本人曰く純愛ものが好きらしく、寝取り系が嫌いとのことだった。
そういえばこのやり取りはすぐに話題になって、Twitterで#純愛ものがトレンド入りしていた。
さすが姫乃琴音、大人気Vtuberは伊達じゃない。
しかし、高校1年の女子生徒が自分の好きなジャンルをネット上で告白するなんてものすごいメンタルが必要だろうに・・・
これには何かあると思ったので俺は天舞音にそれを語った理由を聞くことにした。
「なあ天舞音、どうして自分が純愛もの好きだって告白したんだ?」
「え?!、あ・・・」
「ん?どうした?」
急な質問に動揺した様子を見せた天舞音だったが、すぐさま冷静さを取り戻して答えた。
「いや、そんなの演技の一環だって!!マジでそんなこと言う人いたらヤバいでしょ!全部人気のためだよ!!!」
「確かに、そうかもな。それが話題になるんだったら越したことは無い。」
「でしょ!じゃあ私そろそろ宿題しなきゃいけないから・・・」
そう言って天舞音は足早に自身の部屋に帰って行ってしまった。
それから俺は少しばかり休憩した後、すぐに机に向かい、勉強を再開した。
そして、この家に住むもう一人の学生はただ頭を抱えていた。
「あ~、どうしよう・・・絶対お兄ちゃん私の好きなやつが純愛ものだって信じちゃってるよ・・・・・・まあ本当のことだから仕方ないけど・・・」
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