第19話 竜の気配といつもと変わらぬ四人


「で、どうします?グレブが来るまでにする事が沢山あるでしょう。住民の避難に王都や近隣の騎士団への連絡……そうか、グレブが来る事は慣れっこなんですもんね」


 京の言葉に、ガルディが地図を指し示す。


「ザンザムールの様子が掴めなくなった頃より、避難民を募り出立させ始めています。と同時に王都への伝令、近隣への警戒などを進めております。何せ、数年に一度は攻めてまいりますから」


 王都や近隣の町への道筋を指でツウ、となぞったガルディ。


「配置としては海側はいったん様子見、船団が来ましたらその規模に応じて戦力を展開させます。また、この街の地下には備蓄庫を兼用とした避難場所もございますので。ただ、今回は……」

「竜の存在とザンザムールの様子が気がかりなんですね」


 眉をひそめた京に、ガルディが頷いた。


「通常でしたら、南は連携できていたので殆どの兵を残る三方に分散、集中させる事ができましたが……竜がどこに出るか。その一点に尽きます。数日持ちこたえれば王都騎士団が参戦してくれるとしても、未知の闘いになるでしょう」


 すると。


 蓮次が裾を払って、立ち上がった。


「敵さん、せっかちだな。もう二刻もすりゃ、竜がつがいでやってくんぜ?」


 蓮次の言葉に、ゼペスとガルディが瞠目する。


「番?!グレブは竜を二体も呼び出している、ですと?!」

「蓮次様、どちらからですか?!」


 詰め寄った二人に、蓮次は。


「北と東にゃあ、龍の兄さんと玉藻の姐さんが様子見にいったからな。獣の勘で避けてくるとすりゃあ、残るは南、西の海じゃねえか?ま、んな訳だ。どこから来ようが、期待してくれていいぜ」

「そうね!この町のみんなはお祭りの準備でもしてたらいいよ。あ!お祭りをみんなが喜んでくれたら、費用は請求するからね!楽しくなさそうならまけたげるけどね!」


 蓮次の余裕の発言に、奏が乗っかり、エルが口を挟む。


「ちょっとー奏ちゃん。あんまりと、蓮さんに愛想つかされちゃうわよ?」

「うっ!……だって、蓮次ほっとくと『宵越しのなんちゃらは』って使っちゃうじゃない。お金貯めないと、すいーとほーむがどんどん遠くなっていくんだよ……」


 先程の自爆で吹っ切れたのか、蓮次の服の袖を掴んで唇を尖らせる奏の顔は、夢いっぱいの乙女のようである。


「奏ちゃん、もう新居の話かい?!あー、これは本気の目だ……!」

「いいんじゃないかしら?お似合いだと思うわよ」


 天を仰ぐ京に、ふふふ、と笑うエル。

 今から闘いに出向く人間の言葉とは思えないような発言の四人に、ゼペスは請け負った。


「頼もしい限りです。では、こうしましょう。グレブを打ち破った暁には近隣の町も総出で、王都のように『オマツリ』を致しましょうか。その際は私の名に懸けて決して、褒賞や資金の出し惜しみは致しません。そして、今この時より私達と『マツリバヤシ』は運命を共に」

「そうけえ。ま、かたっ苦しいのは抜きだ。楽しみにしとくぜ?いってくらあ」


 からり、と笑った蓮次が部屋の扉に向かって歩き出した。


「あ、待ってよ!私も蓮次と、あ、赤ちゃ……の為に頑張っちゃうんだから!」

「蓮さん……僕らからはもう何も言えることはありません」

「……ブロンに最上級の回復魔法、奏ちゃんの頭にかけてもらおうかしら」


 奏のテンションに、流石に呆れ顔をした京とエル。


 四人は何気ない足取りでゼペスの屋敷を出たのであった。


 

 


 

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