第9話 グレブ帝国皇帝の企み
レンダ公国から海を挟んだ大陸の、やや南に位置するグレブ帝国。
ゆっくりと登りゆく、朝の光の中。
王城の
そこに。
コン、コン。
扉を打つ音が響いた。
「陛下……ファルナス皇帝陛下」
夜を徹して部屋を警護していた衛兵が、扉の外から声をかけた。
だが呼ばれたファルナスは、ピクリとも反応しない。
暫くして。
また、扉が叩かれた。
「皇帝陛下。マルイエ宰相様がお見えになられました」
コン、コン。
コン、コン。
「んがっ!……………………うるっせえな!何だよ!」
目を覚まし、不機嫌そうにファルナスが怒鳴る。
「はっ。御就寝のところ、大変申し訳ございません。マルイエ宰相様がお見えになりましたが、いかがいたしましょうか」
「マルイエ?何だよ朝っぱらに?……あの話か?通せ!」
その言葉に、扉が重い音を立てつつ開けられていく。
そして衛兵と真っ白な顎髭を湛えた老人、マルイエが部屋に入ってきた。
「陛下。早朝より申し訳ございません。ご機嫌麗しゅう」
「いいと思うか?おい、俺が呼ぶまで誰も近づけるな。死にたくなかったらな」
「は……ははっ!」
怯えた衛兵が慌てて頭を下げ、部屋を出ていく。
足音が確実に遠ざかっていくのを聞いていたマルイエが、話し始めた。
「陛下、報告が二つございます。まず一つは、次の戦でザンザムール王国が我らに呼応して、レンダの南と東から攻め入る事を王に承諾させました。兵糧と兵も供給するとの誓約も取り付けましてございます」
「ほう……それで?どうやった?」
ニヤリと笑うファルナスに、頷いたマルイエ。
「はい。召喚に成功した竜をザンザムールの外壁結界の間近まで呼び寄せ、ブレスにて結界を粉々に破壊させました。次いで、王城に向かって攻撃を加えようとしたところに、白旗が」
「ぎゃーっはっはっは!そりゃいい!見に行きゃよかったな!あんなショボい国なんか腹の足しにもならないが、うちには糞生意気に抵抗してたからな!」
ファルナスは忌々しげに舌打ちをし、マルイエは頷く。
「で?いつレンダに攻め込む?ここまで来てお預けなんか許さねえぞ?」
「……攻め入る準備は順調に進めております。ザンザムールから奪った兵糧が届きますれば出港が可能でございます。おおよそ十昼夜ほどで……」
「遅い。七昼夜だ」
「……仰せのままに」
君命に、重々しく頷いたマルイエ。
「うっし!」
「重臣を全員連れて来い!策を詰める!……これで!今度こそレンダを吞み込める!英雄気取りのアールズゲートをぶち殺せる!あの国の金!鉱脈!女!兵力!国全部が俺のもんだ!魔王も竜には勝った話なんて聞いた事がねぇ!魔王殺しだか何だか知らないが、竜のブレスで丸焦げだぜ!俺のが上だ!最強だ!そんでその勢いのまま、大陸を飲み込んでやるとするかよ!」
まるで興奮する子供のようにはしゃぎまわるファルナスを見つめていたマルイエは、静かに頭を下げた。
「それでは重臣を集めますので、お待ちくださいませ」
「おお!早くしろよ!だが、その前に飯だ!ありったけの肉を持ってこい!こんな錆びついた国なんか捨て去った後は、新しい俺の国の門出だ!」
「畏まりました」
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