第23話 奏でる

 京が、流暢に話し始めた『阿』に驚き、その背中から大地へと転げ落ちた同時刻。


 狛犬『うん』はダナンの東方の町、ペールの門前で、北へと名乗り出たかなでの紡ぐ言葉と唱える姿を見つめていた。


(始まった。奏の祈りが)


『吽』の主、サクヤとイワナガの愛しき巫女、奏。

 

 その力が、今。




 


(誰だって……ポツリ、と生まれてきた訳じゃないのに)


” この世界で、まばゆい生を受けた者よ ”




(この限りある世界で、分け合ってるのに)


” 未来を、望む者よ ”




(怒りと悲しみと嘆きを生み出しながら、奪い、虐げる)


” 湧き上がる欲にまみれる者よ ”




(もう一度、考えてほしい。貴方達のしようとする事)


” みこ くおんじ久遠寺 かなでの なにおいて とう ”




(世界に生まれてきた全ての物は、命は)


” うまれ おわる いのち ”




(繋がっているんだよ)


” りんね めぐる せかい ”




( こと のは つむ ぐ つむ つむぐ )


” こと のは つむ ぐ つむ つむぐ ”




” ” ほし よる うみ かぜ つき ひの ひかり ” ”

” ” やみ かげ おり なく こえ いのち ” ”


” ” ふる ふれ ふら ふる ふれ ふら ふらら ” ”

” ” ふる ふれ ふら ふる ふれ ふら ふらら ” ”



” ” ふ る ふ れ ふ ら ふ る ” ”





” ” ふ    れ    ふ    ら ” ”









” ” ふ        ら        ら ” ”










 杖を祓い棒のように振りながら、ゆら、ゆら、と舞い始めた奏。


 皆が狛犬の『吽』と共に先行した奏からの願いを受けて、兵も有志も町の人間も全て防備に回され、皆が外壁の上から奏を見守っている。


 その中には、王都から蓮次達とダノンの町へと向かった冒険者パーティー『白夜』のアストと弟のザガン、アストの子供達のラステラとケルン姉弟も含まれていた。

 

 目を見開き、奏の舞いを見つめるラステラとケルン。


「す、スゴイ……奏さんを中心に、白い光が増えてく、広がっていく……」

「地面から、光の粒が……すっごいキレイ……」


 その横では、アストとザガンが外壁から身を乗り出しつつ顔を見合わせる。

 

「お、おい。何が始まるんだよ。兄貴は奏の嬢ちゃんから何か聞いてるのか?」

「俺も詳しい事は教えてもらえなかった。が、まずは結界を張ってから大規模な術を使うって言っていた。その後は術を抜けてくる兵がいるかもしれないから、警戒は怠らないでほしいと」

「こんな魔法、一人で発動できんのかよ……王都のSランクパーティー並みじゃねえのか?」


 グレブ来襲の緊張と目の前の光景に、思わず自分の体を抱え込むザガン。

 

「……いや、これは魔法じゃないらしいぞ?」

「は?」

「奏が言ってた。魔法じゃなくて、心に語り掛ける祈り、だと」

「え?」





 舞う。


 舞う。


 舞う。


 トランス状態に入った奏を中心にして、舞い広がっていく言霊。


『吽』の目の前で一心不乱に呟きながら、舞う奏。


(これが、神とうつつを繋ぐ、『境界の巫女』奏。想いを、願いを、意志を、形に紡ぐ。結界を張ってから、と言っていたけれど……正解ね。張らなければ、一里4㎞四方は術から逃れられない。そう……)





 誰、一人。 





● 





” ふ       

  る     ふ     

   ふ     ら     ふ     

    れ     ふ     れ

           る     ふ

                  ら





     ふ             

          



            ら    




                   ら ”  










 そして。

 奏の祈りが、一つのことに変わった。





 ” かは彼は    たれ    どき ”                   




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