第4話 花を探す子供達

 

 アストの人選を聞いたラステラは飛び上がった。

 森に入る人数が、余りにも少なすぎるのだ。


 護衛についている時の取り決めを忘れて、ラステラはアストに詰め寄る。 


「お父さん!四人で『ルアージュの森』に入るなんて無茶だよ!ヨハンさんが荷物の事を気にしなくていいって言ってくれてるんだったら……みんなで!」

「ダメだ」

「何で!危ないよ!だったら、私が……!」

 

 アストは、涙を浮かべて地団駄を踏むラステラの頭をぽん、と叩いた。


「時間がない、聞け。俺達はこの森の強い獣やヌシを倒しに行く訳じゃない。子供達を探して保護するだけだ。下手に大人数で行けば、探す範囲が広がる代わりに獣に出くわす危険が増えて、全員が生きて帰れる確率が格段に下がる」

「で、でも……そんなの!」


 アストの話を理解はしても、納得がいかず必死で食い下がろうとするラステラ。


「だから、少数で行く。子供の足だ、早々に追いつけるだろう。ケルンが動物と子供達の気配を探り、子供がいたらヨハンと俺と蓮次が抱える。あとは、蓮次。『俺らは誰が残っても、森に入ってもいいぜ?』の言葉、魔王戦で生き抜いた腕……信じてもいいんだな?」

「ああ、任せな」


 蓮次が顎を引いて、さらりと請け負う。


「ヤバいの来たら、頼んだぜ?……そんなところだ。お前らは、俺達が子供達を抱えて戻ってきた時に、万が一獣に襲われていたら援護を頼む。任せたぞ?」

「うん……わかった!その時は全力で、お父さんを守るから!」


 アストに返事をしたラステラは、拳を握りしめながらヨハンと蓮次の方を向く。


「蓮次さん!ヨハンさん!父とケルン、子供たちの事、お願いします!そして皆で、無事に帰ってきて下さいね!」

「ガッハハハ!任せろ!」

「ああ」


 ヨハンが頼もしげに返事をし、蓮次は右腕を上げた。


「よし。俺が先頭、ケルンとヨハンは中衛の位置で辺りを探ってくれ。戦闘になっても、決して参加するな。俺と後衛の蓮次で何とかする。行くぞ!」





 馬車の前まで戻ってきた居残り組のゼガンは、奏、京、エルに訪ねた。


「なあ。『祭囃子』の噂や活躍はギルドを通して聞いていたが、俺達『白夜』は魔王討伐戦にお呼びがかからんかった側だ。アンタらにとっちゃあムカつく質問ですまねえが、アニキやケルン、ヨハンの命が掛かってるから敢えて聞く。蓮次は……異世界から来たアンタらの中でも更につええんだろ?な?」


 縋るように問いかけてくるザガンに、三人は顎に手を当てて空を見上げる。


「その辺りがよくわからないのよねえ~。剣と攻撃魔法なら京と奏ちゃんの方が上だと思うし、そもそも蓮さんが剣や魔法を使っているのを見たことがないよね?魔王戦の時もそうだった」


 エルが首を捻りながら、そうザガンに答えた。

 奏が後に続く。


「そうね。蓮次の使をする子は、どの子も間違いなくスゴい。あれが召喚魔法っていうなら蓮次は最強だよ。けどあの子たち、召喚されてる感じじゃなくない?魔法の気配がしないし、なんか勝手に出てくるみたいだし。蓮次自身が強いかって聞かれたら……正直、何て言っていいかわからないかも」

「お、おいおい!不安になるような事言わねえでくれよ!……今からでもアニキに所に向かうか……?」


 剣の柄を握りしめたザガンが、不安げに森の方を見やった。


「でも」


 そんなザガンに、京が語り掛ける。


「ここ一番っていう時、蓮さんは本当に頼りになります。僕等だけかもしれませんが、どんな闘いの中でもあの背中を見るだけで安心できるし、力が湧いてきます」

「ね」

「そうね」


 京の言葉に、うんうんと頷く奏とエル。


「ザガンさん、大丈夫ですよ。必ず蓮さんはアストさん達や子供達を連れて帰ってきてくれます。それに、先行したあの子狐……あの子も蓮さんの期待に応えてくれるでしょう。恐らく……僕等の世界でいう妖魔、こちらでは魔獣かな?……の上位に君臨するレベルの力を持っていると思われます。だから、僕達は僕達の仕事をこなして、皆の帰りを待ちましょう」






 一方、『ルアージュの森』では。


 カシとトトの兄弟と、カシの幼なじみのナナンが森を恐る恐る進みながら地面に目を凝らしていた。


 幼いトトは大好きな兄やナナンと一緒にいられることが嬉しいのか、ニコニコしながらカシに手を引かれている。


 そんなトトを見ながら、ナナンがカシに話しかけた。


「なんでトトを連れてきたの……!まだ三才の子に何をさせるつもり?!」

(しっ!声でけえ!森の主が出てきたらどうすんだ!だいたい、何でお前までついてきたんだよ!)


 ナナンは慌てて口を押えた。


(カシがトトの手を引いて門を出ていくのを見たからだよ!心配になるよ!)

(……俺一人で来たかった。こんなあぶねえとこ、当たり前だろ。母さんが倒れて、金出して預けられるとこがねえ。トトは母さんが寝たきりになって寂しいのか、俺がいねえと大声で泣き叫ぶからなおさらだ。誰も預かってくれねえんだよ)

(でも……)

(もういいから、どうせならナナンも地面を探してくれ!この色とこの色の花だ!この二つの花があれば……母さんの病気が治るんだ!頼む!)


 カシは懐に入れていた紙を、ナナンに手渡す。

 探す花の特徴や色が細かく書かれている。

 カシが人づてに聞いたものをまとめたものだった。


 ナナンは紙に目を通し、頭の中に比較的わかりやすい花の色を叩き込む。

 

(わかった。私もマリーさんの病気が治ってほしいから)


 二人は慎重に、周りに目を配り始めた。


 一つは花びらが大きい、白い花。

 もう一つは黄色と赤色が入り乱れた、派手な花。



 白。


 派手。


 白。


 派手。


 し……



 目を凝らしていたカシとナナンが、弾かれたように顔を見合わせた。


(カシ!あれ!あの花!すっごい色とりどりだよ!)

(こっちも、それっぽい白いの見つけた!)


 二人は左右に駆けだした。

 嬉しそうに前方を指差すトトに気づかないまま。


「……あは!くーましゃ?くーまーしゃ!」


 トトはと目指すものに向かって歩き出した。


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