第14話 領主ゼペスの、祭囃子への願い


 エルの一言で、周りから大歓声が上がった。


「やったー!まま、ままー!」

「お姉ちゃーんっ!!」

「エール!エール!エルさん、かあっこ、いー!」

「エルさんすごいですー!」

「私も土くれのように踏まれてみたい……」

「おい、お前ってやつは……」


 ミュウやロブル、ラステラ達を含めて興奮する人々をよそに、蓮次は手を叩いて大笑いをし、京とかなでは溜め息をつく。


「いいねえいいねえ、相変わらず粋だねえ」

「いいねえ、じゃないわよ。これからが大変だってわかってるでしょ?」

「今回はしょうがないけど、ね。どうなることやら」                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       


 エルに駆け寄ろうとする人々を眺めている三人の前で、ガルディが待ったをかけた。


「待て!そ奴らの捕縛が先だ!」


 白目を剥くコルドンとエンゲラ、藻掻もがいているワルキンに駆け寄り、縄をかけて引き立てていく衛兵達。


 エルは、ふぅ、と溜め息をついて白と黒とくるくると回し、ショルダーホルスターに白と黒をしまうそぶりを見せた。


 が、そこで。


 エルは、周りからの注目と大歓声に気が付いた。


 途端に、きょろきょろあせあせ、と自信なさげな表情を見せ始める。





” système en panneシステムダウン ”





 ひゅるるるるるる……。


 ぽてっ。ふらふら、べし!


 とすっ。ぶんぶんぶんぶん。


 回転中に変身を解かれた白と黒は、地面に落ちて。


 黒は着地した後に、うつ伏せに地面に突っ込む。

 空中大回転は精霊でもキツいのである。


 白は落下して内股座りになり、真っ赤にした顔を両手で隠し、『お嫁にいけない!』と言わんばかりに首を振り続けている。

 最後に、ぺろりん!とされた反動である。


 そして注目のさなかにある、当のエルはというと。




 バッ!!




 周りに向かって両手を突き出した。

 何事か、と息をのむ観衆。




 エルは、右を見て左を見て。

 耳まで顔を赤らめて。


 自分のローブを地面から拾い。

 ぽすぽす、と土を払い。


 袖を通して。

 首元の一番上までボタンをかけて。

 人差し指を胸元で、ぴし!と振りかざし。


 そして。





「そんなに見たら…………メッ!」





 ●




 ゼペスの館の応接室に通された四人。


「いたたっ!みんな笑ってたのに、何で僕だけ?!」

「呼吸困難になるほど笑ってたのは、誰なのよっ!!」


 顔を赤らめて、横に座る京の体を叩き続けるエル。


「いやいや、我に返った後の反応が毎回面白すぎなんだよエルは」

「ま、いいじゃねえか。いいモン見せてもらったぜ、てえしたもんだ」

「私も、二つの顔を持つ女なんだよね。蓮次、見たい?」

「ちょっとー奏ちゃん、何するつもりなのよー」


 蓮次の顔をちらちら見る奏に、呆れたエル。


 そこに。


 ガチャリ、と扉が開いて、ゼペスとガルディの兄弟が姿を現した。


「大変お待たせ致しました。今、飲み物を換えさせましょう。君達はその後は、私が呼ぶまで来なくていい」

「はっ」


 お茶を入れ換えた執事とメイドが、うやうやしく礼をしながら下がっていく。





「なるほど。魔法を打ち出していたのは『魔法銃』に変化した精霊だったんですねぇ」

「エル殿。後で私と訓練場でお手合わせ願えませんか。なあに、踏んでもらっても構いません!はっはっはっ!」

「怖すぎる事言わないでください!」


 破顔したガルディにドン引きするエル。


「お前、エルさんに踏まれたいだけなんじゃないか?」

「いえいえ!そんな事は!はっは!はっはっはっ!」


 エルが立ち上がって、すすす、と京の後ろに隠れた。


 ゴン!


「ぬあ?!」

「お前、仕事に戻れ。エルさんを怯えさせてどうする!」


 ゼペスに頭を殴られて、悶絶するガルディ。


「大変失礼しました。バカな弟は放っておいて本題に入りましょう」


 そう言って、居住まいを正したゼペス。


「グレブ帝国が攻めてくる、という情報が入りました」

「あん?そいつなら道中に聞いたぜ?手え貸せ、とでも言いてえのかい」


 無表情でゼペスの顔を見つめた蓮次。


「いえ。大変申し訳無いんですが、数日中にこの街を出て頂きたいのです。この世界を救う為に魔王と闘ってくださった『マツリバヤシ』の皆様の、お手を煩わせるにはいきません」




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