第11話 子供達のわだかまりと、エルお母さん。
「ほら、泣かない泣かない。どうしたの?お姉ちゃんに教えて?」
地面に膝をついて料理を拾い集めるミュウを抱き起こしたエル。
「ころんで、おにくさんとおやさいさんをぜんぶ、おとしちゃったの。みゅうが、いけないことしちゃったの……!」
そこまで言って
「そう。転んで……ねえ」
エルは呆れ顔でミュウにぶつかった子供達をちらり、と見た。
おどおどと視線を
「違うよお姉ちゃん!コイツらが後ろからミュウの背中にぶつかってきたんだ!」
「そ、そんな訳ねーだろ!」
「そうだ!エランがそんな事する訳ないだろ!ロブル、噓つくな!」
「そ-だそーだ!この犬ころ!」
「……!!ふざけんじゃねえ!」
口々に反論をしたばかりではなく、獣人としての自分を馬鹿にする子供達にロブルが飛び掛かりかけた瞬間、
「はい、それまでー!」
割って入った
「お……おねえちゃん!止めないでよ!こいつらが、こいつらが!」
「ダメ。悔しいのはわかるけど、一番悲しいのはミュウちゃん。お兄ちゃんが傍にいてあげなくて大丈夫なの?」
「あ……!」
慌てて振り返ったロブルが、ミュウを見つけて駆け寄っていく。
「私も見てた。君達からこの女の子にぶつかったの。どういうつもりなの?自分達より小さい子にあんな風にしたら、転ぶに決まってる。ケガさせたかったの?」
奏がちろり、と集団の中心にいる少年、エランに目を向けた。
「……違うよ!わ、わざとじゃないし」
「エランはわざと転ばせたりしねーよ!魔王と戦ったパーティーだからって、えこひいきしてもいいのかよ!獣人の味方ばっかりしやがって!」
「そーだそーだ!えこひいきだ!」
●
そこかしこから不服そうな声を聞いた奏が、溜息をつく。
「……そっか、わかった。エルー、ミュウちゃんとロブル君が喜びそうなお料理と、デザート作っちゃおっか!」
「いいわね。あ、奏の作ったあっつあつの唐揚げ食べたくなってきた。ミュウちゃん、お肉好きなんだよね?あのお姉ちゃんと私で、美味しいお料理作ってあげる」
「え、で、でも……みゅう……」
料理を零したあたりの地面に視線を彷徨わせたミュウが、エルのローブをぎゅっ!と握りしめる。
料理を掴んで泥と香料だらけになったミュウの手で、ローブのあちこちが黒ずんでいくのを見たエルが慌ててミュウとロブルに話しかけた。
「お料理は大丈夫。心配しないで?ごめんなさいね。先にミュウちゃんのお手手と二人のお洋服キレイにしないとね。ロブル君はちょっと傷があるから回復もしようか。ばい菌が入ったら大変なのよ?『
ふわり、ふわり。
屈んでいたエルのローブの裾から、大人の顔ほどの大きさの一対の精霊が顔を出して、ゆるりと羽を打ちながらエルの横に浮かぶ。
淡麗な顔立ちに透き通る白い肌、ツンと尖った耳。
服装までも全く一緒だが、その名の通り髪の色が白と黒に分かれている二人にミュウは目を輝かせた。
「ふあ!よーせーさん?!よーせーさんだ!」
「ふふ、私のお友達なの。黒はミュウちゃんのお皿に料理を戻して。白は二人のお洋服と黒が集めたお料理をキレイにしてね」
胸に手を当てたブロンは、ミュウとロブルに手を伸ばした。
淡く白い光が二人を包み込み、服の汚れが落ちていく。
黒が料理を集めた食材も同様だった。
「ふおおお……!」
「あ、あれ?なんかいい匂いが……する」
白い光の中で、瞬く間にきれいになっていく自分の手や服をキラキラとした目で見つめるミュウと、自分の体の匂いを嗅ぐロブル。
顔に赤みが差し、服の隙間や首筋から血色の良い肌が見え隠れする。
「これでいいかしらね」
「しろいよーせーさんすっごい!あ!くろいよーせーさんもー!」
「落としたお肉もお野菜はキレイにしたら私のご飯にしちゃおう。何作ろうかしら」
顎に人差し指をあてて楽しげに笑うエルに、ミュウは顔を青ざめさせる。
「おとしちゃったのはみゅうが……」
「だーめー。私は精霊の魔法があるから大丈夫。ミュウちゃんとロブル君には私達が別の美味しいお料理作ってあげるわよ。そんな顔しなーいの♪」
そう言ってミュウの頭を撫でるエルを見て、次はロブルが慌てた。
「お姉ちゃんの服がすっごい汚れてる!多分ミュウが……汚してごめんなさい!」
「んー?一日中キレイな服なんてないでしょ?私の服は別にいいの。二人とも本当に優しくていい子ね、嬉しくなっちゃう。白、黒、帰っておいでー」
ニコニコと笑って、ロブルとミュウを気遣うエル。
そんなエルに、二人は顔を見合わせて瞳を潤ませる。
精霊を戻し、自分の服の汚れはそのままに立ち上がろうとしたエルに、
「じゃ、調理場の方で一緒に……えっ?」
ミュウがしがみついた。
「ま、まま……!まま、まま……ああああああああ!」
ロブルは、そんなミュウの傍でエルの袖を掴んだ。
「お、おか……お母……さん、お母……!おか……あさ…………!」
ぼろぼろと大粒の涙を零す二人に、目を点にしたエル。
(あらあらー、お母さんを思い出しちゃったのかしら。え?!いくつに見えてるの?!私、高三なんだけど……ま、今はいいか)
「ロブル、おいで?ミュウとロブル、いっぱい、ぎゅー!ってしてあげる」
エルは自分にしがみつく二人を抱きしめて、そっと撫で続けた。
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