第29話 奴隷商の息子と傭兵団

 ブリオン傭兵団が力を貸してくれる事になったその日。


 ブライドさんから契約書を交わしたいとの事で、ギスルに準備して貰っていた時だった。


 とある人がお店に入って来る。


「ん? き、貴様は!」


「ん? なんでムサ男がここにいるんだ?」


 真っ先にブライドさんが威嚇し始める。


 もしかしてこの二人って知り合いなのか?


「久しぶり~、――――――――ヴァレオ」


 最上位能力を開花させたヴァレオは、既に歴戦の戦士のようなオーラを放っている。


 能力がなかった頃から強かったのもあるからか、戦いはからっきしの僕でもヴァレオが強い事くらい分かるほどだ。


「アベル様。どうしてムサ男がここに?」


「えっとね。シュルト奴隷商会の新しいパートナーになってくれたんだよ」


「なっ!? アベル様! こんなムサ男で良かったんですか!?」


「おいおい! ふざけんな! アベルはもう俺らと契約したんだ! 邪魔すんじゃねぇ!」


 そういや、ブライドさんが最近強い傭兵団が誕生して迷惑していると言っていたのって……。


「邪魔するわけないだろう」


「は?」


「アベル様が決められた事に、俺が口を出すはずもない」


「そ、そうなのか? それにしてもどうしてお前がアベル様のところに?」


「なんだ。知らなかったのか? 俺はシュルト奴隷商会の卒業者だぞ?」


「な、なんだって!? ってことは、お前、元奴隷なのか!?」


「ああ。まぁ自業自得で奴隷堕ちになったが、アベル様のおかげでこうしていられるようになったぞ」


「まじかよ…………ぽっと出の天才かと思ったら、意外と苦労してんじゃねぇか」


「それはお互い様だろう」


「なんだ~! ただの頭硬い野郎だと思ったら仲間じゃねぇ~か!」


 最初はヴァレオに突っかかって敵対心剝き出しだったブライドさんは、ヴァレオに肩を組むほどには心を許した。


「アベル様。ブリオン傭兵団と手を組むとはどういう事なのか、聞かせて頂けませんか?」


「うん? いいよ~」


 僕はヴァレオに一通り『指定依頼』のことや、ブライドさんの登場などを話してあげた。




「…………この短期間にそんな大きな事が起きたんですね。もう少し力を付けてから訪れるつもりが遅れてしまいましたね」


「ん? どうしたの?」


「実は俺がゼラニウム傭兵団を開設した理由は、いずれ力を付けてシュルト奴隷商会の奴隷達の受け皿を作ることです。ようやく地盤ができたのでアベル様に報告に来た次第です」


「そ、そうだったんだ。凄く嬉しいけど、せっかくの自由をシュルト奴隷商会のために過ごすのは……」


「アベル様。それは誤解です。いえ、誤解ではない部分ももちろんあります。ですが、俺が傭兵団を開いて運営する中でシュルト奴隷商会の破竹の勢いは本物です。傭兵団長として、この波に乗らない手はありません。どうか我が傭兵団もアベル様の事業に参加させてください」


「お、おい! 待て! アベル様の事業には、俺達ブリオン傭兵団が参加するぞ! あ、アベル様! 契約書はもう交わしてるんですぞ!?」


 いや、まだ交わしてはないよ……ギスルがいま作っているでしょう。


「あはは、凄く嬉しいけど、僕はブリオン傭兵団と組むと決めたからね。でも、番手傭兵団でもいいなら、ブリオン傭兵団のなる傭兵団として参加してくれると大助かりだけどな~」


 ブライドさんの目から火が出る。出てないけど、そう見える。


「先を越されてしまっては仕方ありません。我がゼラニウム傭兵団は番手傭兵団として参加させてください」


「ありがとう。これからブリオン傭兵団に次いで、よろしく頼むよ」


「はい」


「う、うおおおおおお! アベル様の一番手傭兵団として頑張るぞ~! 二番手の傭兵団のヴァレオよ。これからよろしく頼むぞ! 一番手だからな! 後輩とは仲良くしたいものだからな! がーははははっ!」


「ああ。よろしく頼むよ。先輩」


 ちゃんと空気を読んでくれたヴァレオには大助かりだ。


 僕は本当に良い仲間を持ったモノだね。


 ギスルがいつの間にか用意した契約書を2枚持って来てくれた。


 先に1枚目をブライドさんの前に出してブライドさんがサインをして、僕もサインをする。


 それが終わってヴァレオの前で紙を出してサインをして貰い、僕もサインをする。


 こうして、シュルト奴隷商会は傭兵団を二師団抱えて『指定依頼事業』を始める事になった。

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