第4話 奴隷商の息子の初仕事

 あの日からお父さんが経営していたシュルト奴隷商会が変わった。


 まず一番目にやる事は、10歳を超えた奴隷達の中で『能力開花』を受けさせる事。


 これは10歳を超えた人が受けられる儀式で、この儀式を受けると『能力』という特別な力が目覚める事がある・・・・


 そう。


 事があるので、もちろんハズレもある。


 ちなみに僕もハズレで、『無能』というちょっと前世からしたら「おい、ふざけんなよ! せっかく異世界に転生したのに無能呼ばわりしないで!?」とつっこみたくなるような能力だが…………まぁ言葉通り能力がなく、一般人的な扱いだ。


 実はこの『無能』は人類の9割が『無能』だそうで、何かしら開花するだけでこの1割に入れるからものすごいと思う。


 ただ、これもタダでやってくれる訳ではない。


 『教会』と呼ばれている集団から『能力開花儀式』を受けるのだが、それには料金がかかる。


 一人につき、銀貨10枚。


 日本円換算だと10万円くらいだが、この世界の物価の低さから体感的には50万~100万くらいに感じる。


 と、そんな高額なために多くの人は『無能』すら開花できずにいるのが現状だ。


 そもそも何もない『-』と『無能』では天と地ほどに違う。


 その理由はこの世界ではステータスという概念があるためだ。


 『無能』なら『-』よりも3倍は高くなれる。


 なので多くの人は大人になって、働いて金を貯めては必ず開花を目指すのだ。


「これから奴隷のみなさんには『才能開花』を目指して貰います。ただし、料金は全てうちが持ちます」


 僕の言葉に奴隷達からは驚きの声が上がったが、代わりに決してうちの奴隷商会を裏切らないように念を押しておいた。


 まぁ、『奴隷魔法』でそもそも強制ではあるんだけどね。


「それと、これから戦えない奴隷達は数日間、無償で働きに出て貰います。ただ今回は『最低賃金保証』で何とか我慢してください。これからうちの奴隷商会の名が広まれば、みなさんの頑張りがもっと評価されて、給金も増えますから」


 早速お父さんにお願いして、戦える奴隷達は冒険者ギルドに向かわせて、戦いの手助け傭兵として雇い主を探して貰う事にした。


 こちらはお父さんが担当してくれるそうだ。


 僕はお父さんから言われたとある場所に向かった。




 ◆




「初めまして。イングラム・シュルトの息子、アベル・シュルトと申します」


「これは中々勇ましい息子さんだな。わしはヘンリー・シアリア男爵だ」


 こちらはシアリア男爵家で、目の前に現当主様が見えている。


「本日は連絡もなく訪れて来て大変失礼いたしました。お会いしてくださってありがとうございます」


「なに。我が家に取って有益な話があるとの事だ。シュルト奴隷商会はここいらでは有名だからな」


 いくつかある奴隷商会の中でも、うちは歴だけなら凄く長いらしい。


 だからうちに身を売りに来る人達も大勢いたりするのだ。


「はい。本日は仕事の事で訪ねて来ました」


「ほお? 後ろに待たせている…………ん? 奴隷かな?」


「こちらは我が奴隷商会の自慢の奴隷達でございます」


「…………奴隷達にメイド服なんて着せるなんて、珍しいな?」


「はい。それには事情がございまして」


「…………」


 男爵がじーっと僕を見つめた。


 この男爵様。目をしっかり見つめて僕を品定めするかのようだ。


 でもそれは逆に言えば、僕も彼を品定めする。


「ふふふっ。これは勝てないな。ぜひ聞かせて貰おう」


 苦笑いを浮かべた男爵様がそう話す。


 何に勝てなかったんだろう?


「ありがとうございます。実は我が奴隷商会は今までの商売の在り方を変えようと考えております」


「ほお?」


「今までなら奴隷は売るモノでしたが、これからは――――――貸すモノにしようと考えております」


「貸す?」


「はい。傭兵のようなモノですね」


「ふむふむ。だが戦争は終わり傭兵はもういらないのだがね?」


「ふふふっ。男爵様も人が悪いです。彼女達は兵じゃありませんから」


「がーははは。これは悪かったね。あまりにも大人びていたものだから、少しからかってみたくなったのじゃ。それで、続きを聞かせてくれるかい?」


「はい! こちらの奴隷達は炊事洗濯から雑用まで、メイドと全く同じ仕事ができます。普段ならいいのですが、男爵様は最近とても勢いがあるとの事でしたから、メイド達も足りないのではありませんか?」


「がーははは! そこまで見抜いておったのか。それで? わしに雇って欲しいのか?」


「端的に言えばそうなりますが、今回は特別に! タダでお貸しします」


「ん? タダで?」


「はい。代わりに彼女達の衣服に我がシュルト奴隷商会の刺繡を入れさせてください」


「がーははははは! そこまで商売を考えておるのか! こりゃイングラムでは手に余る息子だな! 面白い! その話に乗っからせて貰おう!」


 どうやら男爵様は大満足のようで、大きな声で笑って承諾してくれた。


 こうして僕の初めての仕事が大成功に終わった。

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