第3話 奴隷商の息子の提案

「では、これから我がシュルト奴隷商会の在り方を説明します。今まで奴隷というのは、大きな金額で売買されてきました。ですがこれだと売られた側のモラルによって奴隷達の待遇が違います。いくら奴隷法というのがあっても、半分無理矢理嫌な事をさせる事もできるみたいです! 僕はそれを徹底的に防ぎたいと思います。そのためにまず、奴隷を売らずに貸す事で賃貸に変えます!」


「アベルよ…………そんなに上手くいくのか?」


「お父さん! とても良い質問です! 現状のままでは絶対に上手くいきません。その理由は分かりますか?」


「むぅ……すまん。あまり思いつかないが、借りたい奴隷がないとか?」


「はい! 大正解です! 僕が考えた新たな形の奴隷商会は言わば――――――『傭兵のような奴隷』です!」


「「「「傭兵のような奴隷?」」」」


 奴隷達も疑問に思うようだ。


「さっきお父さんが言った通りながら、戦争が終わり世界で人手が足りるようになり、奴隷が売れない時代に陥ってるでしょう。ただ、平和だからこそ自分の時間を取りたいと思っている人も沢山いるはずです。僕達シュルト奴隷商会はそこを目指します」


「アベルや……父さんはさっぱり分からないぞ」


「仮に、ここにいるエリンちゃんが子守りが出来るとしましょう」


「うむ」


「赤ちゃんは見守らないと危うい存在ですよね?」


「そうだな」


「そこで、赤ちゃんの両親に代わって赤ちゃんを見てあげる事で、両親が自由な時間が生まれます」


「それは分かったのだが、果たして自分の子を預ける親がいるのか?」


「はい! そこです!」


 僕の指差しに奴隷達は少し食いつきがよくなり、お父さんも少しだけワクワクした表情を見せ始めている。


「自分の赤ちゃんを他人に預ける行為は本当に難しいです。ですが一つだけそれを超えられる方法があります。それは――――――全ての信頼を置ける存在なら任せられます。その一つに『奴隷魔法』がございます」


「おお!」


「さっきエリンちゃんと僕を二人っきりにしても、お父さんは何も心配しませんでしたよね?」


「そうだな。彼女は『奴隷魔法』によって危害を与えるような存在ではないからな」


「そうなんです! 『奴隷』というのは、強制的に危害を与えないからこそ安心感があるんです。それにもう一つあるんです」


「「「「もう一つ!?」」」」


「ええ。奴隷だからこそ、一生懸命に働く事です」


 僕はエリンちゃんの両手を握り前に出した。


 彼女の手は前世ではとても考えられないくらい荒れた手をしている。


 それは彼女が普段から炊事洗濯から色んな雑用をこなしている証拠だ。


「この手は、怠け者の手ではありません。この手を見たら誰しもが彼女が一生懸命に働いてくれると信じるでしょう。ですが、見栄え的にはよくありません。ですので、この手のように『誰が一目見ても、うちの奴隷はものすごく頑張って働いてくれる』という信用を貯めます!」


「具体的にどうしたらいいのだ?」


「とても簡単です! ここにいる奴隷のみなさんに凄く頑張って仕事をこなして貰うだけ。でもそれはみなさんがいつもやっている事をただやるだけでよくなります。これには奴隷のみんなにも利点があります」


 僕は体の向きをお父さんから奴隷達に向ける。


「シュルト奴隷商会の奴隷なら何でも任せられる。だから少し高くなっても・・・・・・借りたいと思わせるように仕向けます。そうすれば自然と収入が増えます」


「ぼ、坊ちゃま!」


 後ろのケモ耳獣人族の奴隷さんが恐る恐る手を挙げる。


「はい。どうぞ」


「その……申し訳ないのだけれど、それで収入が増えてもわたくしたちには…………」


「なんだと!?」


「お父さんは静かにしてください!」


 彼の意見にお父さんが怒る。


 それもそうで、彼らはお父さんの奴隷となっている。


 言われたまま仕事をするのが彼らの役目だからだ。


「ここでみなさんに頑張って貰うために、一つ提案をしましょう。これから仕事による『歩合制』と『最低賃金保証』を掲げます!」


「「「「『ぶあいせい』?『さいていちんぎんほしょう』?」」」」


 聞きなれない言葉だからなのか、みんなが首を傾げる。


「まず、『歩合制』はみなさんが稼いできてくれたお金を割合で渡します。これならみなさんが頑張って稼げば稼げるほど、みなさんの手元にお金が入ります。ですがこればかりですと、あまり仕事の出来ない頃は苦労してしまいますよね。それには僕達商会で『最低賃金』というラインを作らせて貰って、仕事を完遂した際、必ずこの額以上はみなさんに渡しますよという確約です」


「アベルよ! それでは商会が損ではないか!」


「はい。とても損です。ですが、これは損ではありません」


「損なのに損ではない?」


「はい! これは未来の。僕達のこの先に待っている未来への――――投資です」


 僕の言葉が終わると、ずっと落ち込んでいた表情だった奴隷達から歓声があがる。


 お父さんは少し難解な表情を見せているが、可愛い息子の頼みならと、やりたいようにやってみるといいと許可を出してくれた。

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