第2話 奴隷商の現状

「あ、アベル……言われた通り、みんなを集めたぞ」


 僕はエリンちゃんの傷を治す間に、お父さんに奴隷達を全員集めるようにお願いした。



 異世界の摩訶不思議その1。


 異世界には前世とは違い、機械はないが、便利な魔法がある。魔法だけでなく、不思議なアイテムなんかも沢山存在する。


 その中でも一番凄いなと思うのは、魔法の塗り薬だ。


 この薬は傷に塗るだけで傷口が塞がり、痛くなくなる。何度か使った事があるけど、それが凄く不思議でいつも驚いてしまう。傷ついたエリンちゃんの傷に塗ると綺麗な肌に戻った。


 さて、閑話休題。



 エリンちゃんを治して広間に集まったうちの奴隷達を見つめる。


 強そうな獣人族奴隷から異種族だけでなく人族の子供の奴隷まで様々だ。


 どの奴隷達にも共通して言えるのは、全員の喉に黒い星型のタトゥーが入っている事。


 これは『奴隷魔法』と呼ばれている魔法で、受ける側の承諾なしでは掛けられない。つまり強制的には施せないけど、裏技的に人を痛めつける場合もあるそうだ。あとは、自分で判断できないほどの幼子の時とかね…………。



「初めまして! 僕はアベルといいます。シュルト奴隷商店の次期店主です」


 うぅ……何となくこういう大勢の人の前で喋った事がないから緊張するよ……。


「今日みなさんに集まって貰ったのは他でもない――――――『働き方改革』をするためです」


 僕の言葉にみんなの表情がポカーンとしている。


 何なら隣のお父さんまで「この子は一体何を言っているのだ……?」みたいな表情をしているのだ。


「こほん。ではこれから我がシュルト奴隷商店のやり方について説明します。ではお父さん!」


「う、うむ!」


「奴隷の相場を教えてください」


「相場!? それはピンからキリまで……」


「分かりました。ではこちらのエリンちゃんの値段と仕事を教えてください」


「うむ。彼女はまだ10歳だから下働きだから売値なら銀貨10枚だな」


 この世界は紙幣は出回っておらず、全てが貨幣となっている。


 貨幣は全部で4種類。


 一番下が1円相当の小銅貨。


 次が100円相当の銅貨。


 次が10,000円相当の銀貨。


 次が1,000,000円相当の金貨だ。


 この通り、全部で100枚で次の貨幣となる感じ。


 一般市民に金貨はまず見る事もないし、何なら一生のうち一度見れるかどうかだと思う。貴族御用達な感じだ。


 さて、エリンちゃんを値段にしたら銀貨10枚。前世ならたった10万円で人を売買するのはどうなのだと怒りが込みあがってくるが、これも異世界ならではのルール。こればかりは仕方ない。


 奴隷ともあれば、主人の言う事は基本的に全部聞かなきゃならないが、代わりに衣食住が与えられる。


 何となくだけど、うちの店を見ても、みんなの衣食住はしっかりしているように見える。が、どれも最低値段の衣食住だね。


 たとえば、一日2食、黒パンと呼ばれている硬くて食べにくいが腹は膨れるパンが与えられ、黒パン一つで大体小銅貨30枚を考えると、彼らは一日銅貨1枚も掛かってない計算になる。


 これも商売なので仕方ないのかも知れない。


「ではエリンちゃんが売れるまでどれくらいの期間が必要ですか?」


「うむ…………それがな。今は戦争も終わり、わりと豊な市場だからな。あと2~3年はかかると思う」


「仮にエリンちゃんの一日を銅貨1枚だとして、3年にするといくらでしょう! お父さん!」


「3年1000日だとして、大体銀貨10枚だな」


「はい。つまり、銀貨10枚で売れたとしても、ある意味損です」


「ふむ……」


 それには奴隷達も肩を落とす。


 実は彼らが奴隷になる一番の理由は『借金』だ。


 借金を返すためにも売れないといけない。




「僕はその現状を変えたいと思います!」




 僕の声にお父さんと奴隷達が一斉に注目する。




「これより、奴隷を売る・・から貸す・・方に変えたいと思います!」




「「「「ええええ!?」」」」


 僕の提案に広間は驚きの声に染まった。

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