奴隷商の息子に転生して異世界の奴隷仕組みを根本からひっくり返してクリーンな仕事を目指します
御峰。
第1話 奴隷商の息子
「ちゃんと働け!」
ドス効いた声が部屋に響くと、すぐに鞭で叩かれる音が響く。
いま僕の前に広がっているのは、奴隷が叩かれているシーンだ。
「お父さん!?」
「ん? どうした。アベル」
「どうして奴隷を叩くのですか?」
「ん? 奴隷とはこういうもんだぞ? お前もゆくゆく奴隷商に
…………普通ならそれを受け入れるだろう。なぜなら、ここは異世界。
異世界には異世界の常識があり、僕みたいな10歳児には、幼いころから
だが、僕は納得していない。
その理由は、僕は確かにただの10歳児なのだが、
僕の記憶通りならまさに『異世界転生』と言うべきだろう。
そんな僕の前で奴隷を叩くのは僕のお父さん――――イングラム・シュルト。王都でひっそりと奴隷商をしている。
「お父さん! 鞭は禁止~!」
「えっ?」
「駄目! それはやだ!」
「アベルよ……確かに鞭は怖いかも知れないが、これで奴隷達を――――」
「駄目! 絶対駄目! 鞭禁止!」
取り敢えず、全力で止める。
だってさ。叩かれる奴隷が可哀想だよ。
寧ろ叩いてケガなんてさせたら、前世でいう商品に傷が付く。と言ってもいいかも。そもそも人は商品じゃないので言い過ぎだけど。
前世では人の尊厳の大事さを知っているのに、異世界では人の価値が低くてその差に違和感をばりばり感じているので、異世界の常識より前世の常識の方を優先する。
「お父さん! いいですか!?」
「むっ!? ま、また!?」
「そこに座ってください!」
「あ、アベル…………」
お父さんがしぶしぶ僕の前にあぐらをかいて座り込む。
実はこういうお説教は何度も行っている。
お父さん的には僕が可愛くて可愛くて仕方ないらしく、全く拒否しないし、こう見えても前世の価値観でのお説教のおかげで、お母さんとも上手くいっている。
だからこそ、お父さんは僕のお説教には絶対に耳を傾けてくれるのだ。
「奴隷は酷く扱うモノではありません! 大事な大事な僕達の
「なっ!? アベル! 奴隷を家族だ――」
「お父さん。僕達が美味しいごはんを毎日食べられるのはどうしてですか?」
「むっ……それは俺が奴隷商として……」
「確かにそれもあります。ですが、元を言えば奴隷達が頑張ってくれたからこそ、僕達は今日も美味しいごはんを食べられるんです」
「だがな…………」
このままお父さんを説得するために、少し言い訳を考える。
「お父さん。奴隷はどういう奴隷が
「う~む。健康で強くて何よりも忠誠心が強い奴隷だな」
「はい! つまり、鞭で叩いてケガさせたら奴隷の価値はどんどん下がります!」
「それはそうなのだが……」
「それに奴隷達はみんな自分の立場を分かっています。だから叩く必要はないんです」
僕はお父さんに叩かれた奴隷の女の子に近づく。
「ねぇ、君。名前は?」
「は、はい……エリンと……申します」
「うちのお父さんが叩いてごめんね。僕の部屋に薬があるから塗ってあげるよ」
「い、いえ! 滅相もありません!」
「ふふっ。僕は君達が元気にいて欲しいんだ」
「元気……に?」
「だって君達が頑張ってくれないと僕達が困るからね。だからその傷を治させて欲しいんだ」
「…………」
その瞳に大きな涙があふれ始める。
「無理にとは言わない。でも僕はお父さんの奴隷商を継ぐ事になっているから、これから自分の奴隷となるみんなを大切にしたいんだ」
彼女の他にも大勢の奴隷達がいる。
前世から考えも付かないような人種――――例えば頭の横じゃなくて上に猫耳や犬耳が付いている獣人族。肌が鱗になっているリザードマン。こういう亜人族も異世界には大勢いた。
「僕がもう少し早く現状を知っていれば、より良い働き場にしたんだけど、遅くなってごめんね? これから僕がお父さんに代わって頑張るからもう少しだけ待っていて欲しい」
「あ、アベル……」
「お父さんは静かにしてください! 今まで酷い扱いをしたんですから、反省してください!」
「ぐはっ!」
「いいですね!?」
「わ、分かった…………」
がっくりと頭を下げるお父さんだが、これも
もちろん、その分お父さんには楽してもらってるし、お母さんとの関係も絶好調だからね。
まずはお父さんに奴隷達を家族同様大切な存在だという事を教え込む必要がある。まだ言葉でしか表せないけれど、いつか…………。
これは僕が前世の知識を持ち、異世界の奴隷に対する考え方を根本から変えて働く物語だ。
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