第14話 奴隷商の息子の交渉

「はい。奴隷に対する王国法は、現状なら奴隷商人に預けられている状態では効力がありません。それを奴隷商人に預けられている間にも効力をあるように変えて貰いたいんです」


「え~」


「ごほん。ペイリース枢機卿。大変申し訳ありませんが、ここは俺に任せて頂けませんか」


「え~どうして?」


「…………はぁ、アテナ様からの頼みです」


 アテナという名を聞いた枢機卿は、今までのだらけた雰囲気から一変して、背筋を伸ばしてちゃんと座り込んだ。


「それなら早く言ってよね!?」


「申し訳ございません。もしもの時はとのことでしたから」


「分かった分かった。あとは任せるよ~」


 どうやら今度はちゃんと神官が相手になるようだ。


 最初の予想通りというか、神官がこの会談の主導権を握っているのは間違いなかった。


「大変失礼しました。ガイアと申します。ペイリース枢機卿に代わり、会談を承ります」


「ガイア神官ですね。よろしくお願いします。アベルと申します」


「アベルさん。それで、奴隷に対する奴隷法の具体的にどういう風に変えて欲しいのですか?」


 いや、もう知っているでしょう?


 僕が何故そう思うかは、彼が具体的に・・・・と言った事にある。


 だって、僕が先程提示したのは、具体的も何も、王国法を売られた後だけでなく、売られる前にも適用させて欲しいと言っただけだ。


 ガイア神官程に切れ者なら、その言葉だけで理解できるはずだ。


 という事は、教会も今の奴隷に対する王国法には困っているように見える。


「ふふっ。教会もお困りのようですね?」


「…………なるほど。どうしてイングラムさんではなく、そのお子さんが来たのかと思いきや、こちらが本命・・でしたか。エリン様が慕うたけの事はあります」


 こういう場合、「うふふ。おぬしもわるよのぉ~」と言いながら、暗黒笑み的な笑顔を合わせるんだろうか?


 言わなくても、今の僕の顔とガイア神官の顔はそういう顔になっているに違いない。


「具体的には、まず奴隷が奴隷商会に預けらた状態・・・・・・にも、売られた後の法律が効力を持つようにして貰いたいです」


「その理由をお聞きしても?」


「奇しくも、僕の提案から始まった『レンタル』ですが、それが今の奴隷市場を大きく変えています。うちのシュルト奴隷商会の『レンタル』の場合、収入の7割を奴隷達に還付しております」


「7割も!?」


「はい。証拠ならここに」


 エリンちゃんに合図を送ると一冊の本をガイア神官の前に出す。


 本を取り、中身を確認したガイア神官は大きく溜息を吐いた。


「まさか本当にここまでなさっているとは。噂は聞き及んでいましたが…………これはまた…………凄い事です」


「ありがとうございます。僕の理念として『レンタル』はただのお金稼ぎのための方法ではありません。奴隷達に自立して貰い、奴隷が終わっても・・・・・自立して生きていけるように仕事に打ち込める場を提供したいんです。だからうちの奴隷達が稼いだ金は自身が貯めて貰って、最終的には自分自身を自分自身が買い取れるようにしています」


「それはまた…………」


「……例えば、こちらのエリンちゃん。彼女も聖女という大きな力を持っているので、いずれ早いうちに旅立つ・・・事でしょう」


「…………」「…………」


「それはとても素晴らしい事です。なるほど。シュルト奴隷商会として出せるのは、それ・・ですか」


「その通りです。僕は彼女の行く末を決めるつもりはありません。彼女がやりたい事を応援するつもりです」


「分かりました。ただ、そう簡単な事ではありませんよ?」


「もちろんです。それに僕はこれからもっと大きなを一つ提案します。それをどうするのかは教会次第です」


「…………どうぞ」


 ガイア神官に僕が思っているもう一つの法を伝える。


 それはこれからの奴隷達の人生を変えるような法だ。


 これが決まってくれれば、もう二度とただの道具として使い捨てられないはずだ。


 しかし、僕の話を聞いたガイア神官に、隣のペイリース枢機卿も難色を示したのは言うまでもない。

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