第11話 奴隷商の息子の相談

「お父さん!」


「アベルか。どうした? そんなに血相を変えて」


「緊急事態です」


「ん?」


 優雅に紅茶を飲んでいるお父さんの執務室にギスルと一緒に突撃した。


 そして、ギスルからもう一度同じ報告をお父さんにして貰った。




「ふむ。それは分かった。だがアベルよ」


「はい」


「それのどこが緊急事態なのだ?」


「えっ!?」


「そもそも他所の奴隷をどうしようが、俺達に何かを言える権限はないからな」


「それはそうなんですけど……このままでは奴隷達の最低限守られていた権限が無視されてしまいます!」


「ふむ…………だが奴隷商会も慈善事業・・・・ではないからな」


「それはそうですけど、このままでは多くの奴隷が犠牲になりかねません」


 僕の言葉に難色を示すお父さん。


「お父さん。シアリア男爵様に相談させてください」


「それは難しい」


「どうしてですか!?」


「相手は貴族様。商売の相手であって、相談相手ではない。それに相手はお客様だからな」


「っ!」


 何かを言い返そうとしたけど、言い返せなかった。


 だって、お父さんが話す事は全てその通りだからだ。


 向こうだって、必要な時に奴隷をうちから借りるだけで、うちを助けてくれる理由にはならない。


「ならどうすれば…………」


「ふむ…………アベルがどうしてそこまで困っているのかが俺には分からないな」


 未だお父さん的には奴隷はあくまで商品であり、我々の商売道具なのだろう。


 でも最近はお父さんも奴隷達の健康に気を遣うようになっているので、少し距離が縮んではいるはずだ。


 ただ、僕が目指している場所より、遥かに遠いだけだから、もっと時間が欲しかった。


「お父さん。うちの奴隷の中から才能持ちが生まれましたよね」


「そうだな」


「それも『聖女』や『剣聖』といった最高峰の才能です」


「それにはとても誇らしいぞ?」


「ですが、彼らがうちではなく、違う奴隷商会に入っていたら、ああやって開花する事はほぼほぼ無理でした」


「それはそうだろうな」


「僕は、奴隷達をただの道具だとは思いません。お父さんや僕みたいに生きている人です。だから中には強い力を持つ才能を開花させる人もいます。才能が開花しなくても、ここにいるギスルのように諜報能力に長けた人もいます。みんな生きている人なんです」


「ふむ……」


「だから思うんです。違う奴隷商会の奴隷達も、うちの奴隷達と何ら変わりのない――――生きている人だと」


「…………アベルは彼らをどうしても助けたいのか?」


「はい。できることがあるなら、何でもします」


「…………方法なら一つだけある」


「えっ!? 本当ですか!?」


 難色を示していたお父さんが、意外にも助け船を出してくれる。


 ただそれが簡単な事ではない事を、感じ取る事はそう難しくなかった。


「これができるのは…………シアリア男爵様でも俺でも無理だ」


「えっ?」


「これができるのは――――――アベル。お前だけだ」


「僕だけ!? お父さん……! 教えてください! その方法を!」


「…………はぁ、聞かなくても覚悟は既に決まっているみたいだな?」


 僕はギスルから話を聞いて、お父さんに相談している時点で、既に覚悟を決めている。


 奴隷達だって生きている人なんだ。だからできることなら、きれいごとでもいいから、彼らを助けたい。


 助けられる可能性があるなら、それにかけてみたい。


 お父さんは困った表情のまま、重い口を開いた。

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