第10話 奴隷商の息子と不穏な知らせ
「アベル様。どうぞ」
テーブルに座っていると、美味しそうな朝食を運んでくるエリンちゃん。
最近はうちで朝食を作ってくれて、そのままお仕事に出かける日々を送っている。
「えっと、エリンちゃん?」
「はい~」
「その…………教会から提案があったって?」
「そうですね」
そんな事ありましたね~的な哀愁ある表情を見せる。
昨日の出来事なはずなのに、もう記憶から抹消したようだ。
「なんてことないんです。教会から私を
「そうだったんだ……でも教会に行けば、もっと楽な暮らしができるんじゃないかな?」
「そうかも知れませんけど、力がないうちに手を差し伸べなかった者が、力を手に入れたら手を差し伸べても、私の心はもう離れているというか、教皇様にそれを話したら素直に納得してくださりました」
彼女の言う事は最も正しい。ただ、教会も全ての人を救えるわけではない。
お父さんがボソッと「
もちろん全員が全員そうではないと思う。
中にはボランティア活動を精力的に行っている方々も多いし、女神様をしっかり信仰する信者達も沢山いる。
でも生活となると、全て面倒をみるのは絶対に不可能だ。それこそ孤児院とかにも限界があるはずだ。
だから一概に批判するつもりはない。
僕は最後までエリンちゃんの選択を尊重しようと思う。もし、聖女として教会に行きたいというなら、それを応援するし、行きたくないなら行かないように手伝おう。
「分かった。僕はみんなが好きなように頑張れるならそれを応援したい。でも困った事があればいつでも言ってね? 相談に乗るからね」
「…………はい」
少し困った表情を見せる。
少なくとも、この時点で彼女に何かしらの心配事があるのは確実なんだけど、言いにくそうで話してはくれない。
いつか話してくれたらいいなと思いながら、彼女が作ってくれた美味しい朝食を食べ進めた。
◆
「アベル様! おはようございます!」
奴隷商会に出勤すると、みんなが出迎えてくれて挨拶をしてくれる。
「みんな~おはよう~」
仕事に行く前にこうしてみんな顔を合わせて、意見を交換したり、時間を一緒に過ごすのは、うちの商会では当たり前の事になっている。
悩みって小さいうちに誰かに相談して、それを解決した方が、大きな負担にならなくて済む。
だからこそ、こうして時間を共に過ごして仲を深めていきたいと思って、こういう時間を設けたのだ。
冒険者の荷物持ちは朝出発が早い人が多いので、そういう人は夕方に集まったりする。
時間はバラバラでも、シュルト奴隷商会という枠の中では、みんな家族のように過ごして貰いたい。
「アベル様。一つご相談が」
ギスルが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「最近
「ん……今の奴隷社会は、うちが一番利益を産んでいるから、いずれこうなるだろうとは思ったよ」
「それでですね。一つ問題がありまして」
「問題?」
「あくまで噂ですが…………他の奴隷商会の奴隷は、うちよりも
「半額か…………えっ!? それってもしかして!?」
「はい。どうやらうちとは違い、全ての収入を奴隷商会が徴収しているそうです」
「…………」
「さらに、彼らは売れる
「ええええ!? どうして!?」
「王国法では、買われた場合の法はあっても、買われる前――――つまり、奴隷商会に所属している間の法はないんです。それこそ、餓死さえさせなければ、永遠に
「っ!?」
僕が思いもしなかった奴隷達をめぐる大事件が起きようとしていた。
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