第12話 奴隷商の息子の決断

「…………それがアベル様のお願いでしょうか」


「うん」


 僕は誠心誠意で、彼女に相談に来た。


 目の前のエリンちゃんは、緊張感を漂わせて目を瞑り考えこんでいる。


 きれいごとでもいいと、世界の奴隷達を少しでもよくしようと思った僕に、お父さんは一つ解決策を授けてくれた。


 それはお父さんならではの解決策で、僕には全く思いつかなかった方法だ。


 何故なら、お父さんや先祖様が長年奴隷商人としてやってこれた理由がそこにあるから。


「分かりました。私はアベル様が願うならどんな願いにも応えようと決めております。ですが一つだけ私からもお願いがあります」


「うん。何でも言って」


「相手側の提案を何でもかんでも飲まない事を確約してください」


「ん? 相手側の提案を飲まない?」


「はい。これからアベル様が相手しようとする教会は、一筋縄ではいかない団体です。向こうから無理難題を付けられると思います」


 エリンちゃんが言う通り、これから僕とエリンちゃんが商談・・に向かうのは、ほかでもない教会だ。


「ふふふっ。エリンちゃん」


「はい?」


「エリンちゃんは一つ、大きな勘違いをしているよ」


「えっと……?」




「僕がうちの奴隷達を……エリンちゃんを売ったりする訳がないでしょう。確かに世界の奴隷達を救いたいのは本心だよ。でもね。きれいごとかも知れないけれど、僕の身を切り売りはしない。だって、僕の身を切り売りしたら悲しむ人が沢山いるから。それにエリンちゃんを売る行為も絶対しない。だからエリンちゃんは僕の隣に立っていてくれるだけでいいんだ」




「アベル様…………はいっ! 私の考えが浅はかでした。申し訳ございません」


 そう話す彼女は僕の前に跪いた。


「エリンちゃん!? だ、大丈夫だから!」


「アベル様。どこまでもお供します」


「ありがとう」


 こうして僕はエリンちゃんとヴァレオと3人で教会を目指した。




 ◆




「こちらでお待ちくださいませ」


 神官に案内されたのは、調度品がこれでもかってくらい部屋中に飾られた貴賓室だった。


 僕が異世界の教会にくるのは初めてだ。


 どこか前世の教会のような雰囲気を想像していたけど、全く違う。


 というか、最初は想像通りだった。入口までは。


 入った礼拝堂は、僕の想像通りの礼拝堂が続いていたけど、そこから案内された奥地は、想像を超えて贅沢な調度品が並んでいたりしていた。


 神官曰く、女神様への献上品だそうで、女神様が見えやすいように、通路に飾ったりするらしい。女神様が空の上から見守っているそうだ。


「それにしても、教会の奥がこんなになっているとはですね。アベル様」


「そうだね。ヴァレオは冒険者ギルドとかに行ってるよね?」


「はい」


「どう? 冒険者ギルドと比べて・・・


「ふむ…………少し言いにくいですが、教会はここまで酷い・・とは思いもしませんでした」


「やっぱりそうなんだ。ここはそれくらい異常なんだね?」


「ですね。アベル様が思うような優しい世界ではないと思います。ここなら冒険者ギルドの方が余程居心地が良いですね」


 ヴァレオが剣聖を授かる前から、彼の実力を買ってくれた冒険者ギルドは、色々良くしてくれると聞いている。


 特に冒険者ギルドのギルドマスターとも対等に話していたという。


 奴隷なのに対等に話してくれる冒険者ギルドマスターの懐の深さには驚いたものだ。


 それに比べて教会はどうだ。


 一部かも知れないけれど、こういう現状を見るとどうしても色眼鏡で見てしまう。




 その時。


 ノックの音が聞こえて、扉が開くと、派手な礼服の太った男性が入ってきた。

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