第22話 奴隷商の息子と男爵令嬢

 今日はシアリア男爵のパーティーの手伝いの前日ということで、うちの下働き組の奴隷達と一緒に男爵の屋敷を訪れた。


「いらっしゃいませ。アベル様」


「本日はよろしくお願いします」


 シアリア男爵家に仕える執事さんに挨拶を交わして、早速みんなに働き場に向かってもらう。


 僕も彼女達の仕事ぶりを確認するために、一緒に厨房に向かった。


 厨房では、明日のパーティーのために仕込みが行われて、予行練習も行っていた。


 早速シアリア男爵家のメイド長に色んな指示を受けて、うちの奴隷達が仕事にかかる。


 みんな普段から練習したり、別の店で培った実力でスムーズに仕事をこなしていた。


 ある者は配膳の準備の練習に加わったり、ある者は食事の下準備をこなしたり、それぞれできる仕事を見つけてはメイド長に相談しながらこなす。


 僕が思っていたよりもずっとうちの奴隷達は頑張って働いてくれているんだね。


 シアリア男爵家のメイドさん達とうちの奴隷達の仕事を夢中になって眺めていると、僕の右腕を突く感触があった。


 感触から右を振り向くと、そこにはいたずらっぽい笑みを浮かべたシャロレッタ令嬢が見えた。


「しゃ、シャロレッタさん!?」


「うふふ。お久しぶりです。アベル様」


 僕の記憶に焼き付けられた彼女は、久しぶりに会っても変わる事はなく、むしろ少し大人びたのではないかと思えるくらいに、今日も美しく輝いていた。


「ひ、久しぶりです!」


 思わず声をあげてしまって、厨房で働いている人達の視線が僕に集中した。


 あはは…………。


 シャロレッタさんはそんな彼らに手を振って、僕の腕を引っ張り厨房から外に出た。




「びっくりしちゃいました」


「うふふ。みなさん見てましたよ?」


「思わず大声が出てしまって……うぅ…………」


「ふふっ。せっかくうちに来てくださったのに、来てくださる気配が全くなかったから、こうして来ちゃいました」


「そ、そうだったんですね! すいませんでした。でも僕なんかと会ってくださるなんて」


「あら? もしかして聞いていませんの?」


「聞いてない……? なんの事でしょう?」


「う~ん。なるほど~。だから来てくださらなかったんですね。じゃあ、今日は本当に貸してくださる奴隷達の試査のためですか?」


「そうです」


 僕の返事を聞いたシャロレッタさんがわざとらしく溜息を吐いて肩を落とした。


「でも仕方ありませんね。ここから頑張ります」


「はい?」


「うふふ。こちらの独り言です」


 シャロレッタさん……どうしたんだろうか。


「アベル様。これから散歩に行きませんか?」


「はい! お供させて頂きます!」


「ありがとうございます!」


 満面の笑みを浮かべたシャロレッタさんがあまりにも眩しくて、僕は浮かれた気持ちで手を引かれて庭を散策した。


 あまりの浮かれぶりに何を話したか何一つ思い出せない。


 気が付けば、すっかりお日様が落ちそうになっていた。


「アベルくん」


「男爵様」


「今日はシャロレッタの相手をしてくれてありがとう」


「い、いいえ! こちらこそ、ものすごく楽しい時間を過ごせました」


「シャロレッタも楽しそうだったな。アベルくん。どうだい。今日は夕飯を一緒に食べていかないかん?」


「えっ!? いいのですか?」


「もちろんだとも。明日のパーティーを成功させるために我が家に力を貸してくれる大事なお客様だからね」


 ちらっと横に両手を握って少し焦っているシャロレッタさんが見える。


「えっと、お邪魔じゃなければ」


 するとシャロレッタさんがまた嬉しそうに笑顔になってくれた。


 …………。


 …………。


 いやいやいやいや。


 まさか、そんな事ないでしょう。


 こんな美少女がまさか~僕なんかを~。


 待てアベル。自惚れてはいけない。


 お前はただの奴隷商人の次期店主だ。


 こんな高貴な方と結ばれるはずもない。


 だから変に意識するのはいけない。


 その日は男爵の厚意で夕飯を共にさせて貰った。


 どれも美味しくて、明日の予行練習を兼ねているらしく、料理を運んでくれたのもうちの奴隷達だった。


 みんなテキパキ仕事をこなしてくれたと、メイド長も喜んでくれた。


 シャロレッタさんとの楽しい夕飯を終え、奴隷達と奴隷商会に帰還した。

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