第21話 奴隷商の息子と継ぐ絆

 奴隷法が正式的に施行される日となった。


 昨日は奴隷達の初旅立ちを記念して夜遅くまでパーティーを楽しんでたけど、気づいたら僕は眠ってしまっていた。


 朝起きると、初期メンバーだった奴隷達はみんな旅立っていた。


「ほっほっほっ。寂しいモノじゃのぉ」


「アデンさん。おはようございます。そうですね……いつもヴァレオの素振りの音が聞こえないのは寂しいモノがあります」


 毎朝ヴァレオの素振りの音から始まっていたから、それが少しは寂しいかな。


 その時。


 ブオーン!


 ヴァレオの素振り音が聞こえた。


「あれ!?」


 思わず驚きを口にして、音がする方に向かうと、そこには奴隷達20人が素振りをやっていた。


「おはようございます! アベル様!」


「みんな?」


「どうかなさいましたか?」


「え、えっと。素振りの音が聞こえたから」


「はい。俺達はヴァレオさんの指導を受けて、冒険者の戦力増強組なんです。こうして毎日素振りは欠かさずにやっています」


 そうだったんだ……最近素振り練習を頑張っている奴隷達がいるとは知らなかった。


 きっとここだけでなく、初期メンバー達が積み上げてくれたものは果てしなく多いんだろうなと思う。


「みんな! ヴァレオに負けないくらい強くなってね!」


「え~! む、無茶言わないでくださいよ!」


「あはは~」


 すぐに奴隷達の仕事にいく準備を応援して歩き回った。




 ◆




「いらっしゃいま――――シアリア男爵様!」


「やあ、アベルくん。久しぶりだね」


「お久しぶりです!」


 最近色々ありすぎて、男爵に会うのも久しぶりだ。


 ソファに案内して、すぐに紅茶を並べる。


「ふむ。シュルト奴隷商会も賑わうようになったのだな」


「ありがたいことに。奴隷法のおかげですね」


「そうかそうか…………仕事を頼みに来たのだが、その前に一つ聞いてもよいか?」


「どうぞ?」


 なにやら真剣な表情で聞いてくる男爵。


「実は噂で聞いたのだ。――――――奴隷法をアベルくんが作ったって本当かい?」


「ぶふっ! ち、違いま――――」


「おお! 本当の事だったのか! それは素晴らしい。我々シアリア家としても嬉しい事だ!」


「なんでバレたんですか!?」


「ん? バレてないぞ?」


「へ?」


「カマを掛けてみたのだ。天下のシュルト奴隷商会の次期店主も、賭け事はまだまだのようだな? がーはははは!」


「ええええ! やってしまった…………」


 くっ……シアリア男爵は元々交渉事が強い人だという事を忘れていた。


 それにしても、どうして男爵が喜ぶんだろう?


「男爵様? どうして男爵様が喜ばれるのですか?」


「ん? まさか、まだ聞かされていないのか?」


「へ?」


「ほぉ……まだのようだな。イングラムは現場かい?」


「はい。お父さんは店よりも交渉事が楽しいと、毎日冒険者ギルドに出かけています」


 いくらシュルト奴隷商会の名前が広がったとしても、お客様との交渉を奴隷に任せる訳にはいかない。


 特に冒険者は、今では大口のお客様でもあるので、毎日お父さんが出向いてくれて交渉を進める。


 一日契約もあれば、数日契約もあったりと、頻繁な交渉事が起きる冒険者ギルドが非常に楽しいそうだ。


 最近ではギルドマスターとも仲良くなったと、嬉しそうに話してくれた。


「ふむ…………ではその件は近々話して貰うとして、今日は仕事の相談で来たのだ」


「はい。どういった仕事ですか?」


「うむ。以前うちの屋敷でパーティーを開いたのは覚えているな?」


「はい。とても素晴らしいパーティーでした」


「あのパーティーはシュルト奴隷商会の手助けもあって非常に好評でね。あれから私も色々事業が成功していて、またパーティーを開催する事になったのだ」


「おめでとうございます!」


「ありがとう。そこで、パーティーを定期的に開催してほしいとの声があり、これから定期的に開くのだが、メイドを雇うより、シュルト奴隷商会から借りた方が良いと判断してね。定期的な『レンタル』をお願いにきたのだ」


「なるほど! ありがとうございます。シュルト奴隷商会としてせいいっぱい対応させて頂きます。初期メンバーは全員旅立ってしまったのですが、そこから引き継がれたモノがありますので、ご心配せずお任せください」


「そこは全面的に信用するとしよう。ではよろしくたのむ」


 こうしてシアリア男爵と定期レンタルの契約を結んだ。

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