第27話 奴隷商の息子と傭兵

 婚約者となったシャロレッタさんと会う日々が増えて、シアリア男爵家に行ったり、こちらに来て貰ったりしながら時間を過ごした。


 色々順調な生活が続いていたのだが、それは突然やってきた。


「ここがシュルト奴隷商会とやらか!」


 乱暴に開けられた扉はそのまま勢いよく壁にぶつかり大きな音を響かせた。


「いらっしゃいませ。シュルト奴隷商会でございますが、どのような要件でしょうか」


 ギスルが速やかに対応する。


 入って来た連中は、全員で4人。大きな身体を持ちムキムキな筋肉が服の上からでも分かるほどだ。


「おうよ。お前らのせいで、俺達の仕事が全然ねぇんだわ。どうしてくれるんだ!」


 威嚇してくる彼らをギスルが冷静に対処しようとするが、聞く耳を持たない感じだ。


 このままではギスルに殴り掛かりそうな勢いだったので、カウンターに座っていた僕が前に出た。


「お待ちください。シュルト奴隷商会の店長のアベルと言います。ご用件はこちらで聞かせてください」


「あん? お前みたいな子供が?」


「はい。少なくともシュルト奴隷商会の『レンタル』をやったのは僕です」


「ほぉ…………てめぇが考えたのか」


 見た目と彼らの仕事がなくなったという文言から、彼らが冒険者と関わりがありそうだと目星がついた。


 だから『レンタル』という言葉を出せば食いつくと思ったのだ。


「どうぞ。こちらにお掛けください」


「ふん!」


 少し悪態をつきながらも、ソファに座った。


 正面にスキンヘッドの一番筋肉が凄い人が座り、ほかの3人は後ろの通常の椅子に座って僕を睨みつけてくる。


「ではお話をお聞きしましょう」


「話も何もお前らのせいで仕事が全然ねぇんだよ! どうしてくれるんだ!」


 目の前のテーブルを叩いて威嚇してくる。


 それなりに力をセーフしているようで、テーブルは壊れずに一瞬宙に浮くくらいで済んだ。


「お仕事というのは、みなさんは奴隷商人でしょうか?」


「はあ!? そんな訳ないだろう! このナイスバディを見て分かんないのか?」


「ふふっ。僕も男ですから、みなさんのような筋肉に憧れます。とても強そうに見えます」


「そうだろう~?」


 右腕をぐいっとあげて筋肉を見せびらかしてくる。


 ヴァレオも凄かったけど、その比にならないくらい凄く太い。


 むしろ、同じ人なのかと疑うくらいだ。


「そんなみなさんはどういうお仕事をなさっているんですか?」


「ふむ。俺達はブリオン傭兵団だ」


「ブリオン傭兵団!?」


 意外にもギスルが驚く反応をみせる。


「ギスル。知っているの?」


「は、はい。店長。王国最強傭兵団として有名です」


「ほお。王国最強か~良い響きだ。だが、俺もうぬぼれるつもりはない。もう最強じゃなくなった」


「なくなった? というのは、別な傭兵団が現れたってことですか?」


「ほぉ……小僧。賢いな。この店の店長というだけはあるな」


 最初は怒ってばかりだったけど、落ち着いて来たみたい。


「俺はブリオン傭兵団のブライドだ。傭兵団長をしている。最近になって傭兵としての仕事が減って、そろそろ仕事を始めようとしたら、まさか冒険者共のギルドに奴隷達が『れんたる』とやらで、もう俺達は要らないと追い出されたんだ。それに新しくできた傭兵団の団長がバカみたいに強くて、冒険者の仕事が全部なくなっちまったんだ」


「なるほど…………じゃあ、暫くは働いていないって事ですか?」


「おうよ! 命を懸けた戦争で残った命だ。暫く楽しんでいたぞ~」


「…………それで4人になったんですね」


「うっ……ま、まぁそうとも言うかも知れない」


 ブライドさんの今までの方針が見えて来た気がする。


「事情は何となく分かりました。しかし、それで仕事がなくなったからうちのせいにされても困るのですけど」


「なんだと!」


「今は平和な時代ですからね。でもみなさんは戦う事で生計を立てていきたいんですよね?」


「お、おうよ」


「じゃあ、僕から一つ提案をしましょう。でも、少なくともしっかり働いて貰う前提ですけどいいですか?」


 ブライドさんの目をしっかり見つめていると、困った表情で答えてくれた。


「俺達は傭兵だ。請け負った仕事は絶対にこなすのが流儀ってもんだ」


 最強傭兵団と言われただけあって、そこは心配しなくて良さそうだ。

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