第26話 奴隷商の息子と婚約者

「こ、こんにちは~」


「いらっしゃいませ! ――――シャロレッタさん」


 入口の顔からぴょこっと顔を出して、僕と目が合うと笑顔になったシャロレッタさんがやってきた。


「どうぞ」


「お邪魔しま~す」


 ソワソワした可愛い天使が――――ごほん。シャロレッタさんが入って来て、ソファに座り込む。


 すぐに店員をしてくれてるベルさんがお茶を淹れてくれる。


 僕の婚約者となったシャロレッタさん。


 今日はうちの店を見てみたいと、訪れて来てくれたのだ。


 ゆっくりお茶をすすりながら、店内を見ながらちらちら僕を見つめる。


 く、くうっ…………可愛すぎて仕事に集中できない…………。


「ごほん。店長」


 ギスルがわざとらしい咳払いから僕を呼ぶ。


 僕は次期店主として、父さんから正式に店長として任命された。


 ちなみにギスルは副店長だ。もう奴隷ではないけど、『さん』付けだけは止めてくれと頼まれていたりする。


「う、うん?」


「目が泳いでますぞ」


「だ、だって!」


「くくっ。店長がアタフタするのも婚約者様の前くらいなもんですな。店は俺がやっておきますから、婚約者様の案内をしてください」


「わ、わかった。ありがとう」


 店をギスルに任せて、シャロレッタさんを案内する事にした。




 最初に向かうのは、中ではなく、外。


「ここは増えた奴隷達を泊められる場所を急ピッチで作っているんです」


「奴隷達をゆっくり休ませる場所なんですね……!」


「は、はい!」


 次の場所に移動する。


「ここはみんなの食事を用意する厨房です! 最近はお弁当が必要な奴隷が多いので、忙しくてなって、多くの奴隷達は調理係とか多くなりました」


「お腹が空いては働けませんからね……!」


「は、はい!」


 食堂を出て、外をそのまま歩いて奥に向かうと、綺麗に整備された空地が広がっている。


「ここは冒険者向けレンタルの奴隷達が普段から身体を鍛えたり、練習をしている練習所なんです」


「凄い……! 普段から一生懸命に鍛えているのですね……!」


「は、はい……」


 最後に向かったのは、とある施設だ。


「あら? ここは?」


「ここは――――まだ仕事ができない子供達を預かっている場所なんです」


「仕事ができない子供ですか?」


「はい。王国法で親の借金は子供に受け継がれる事になっているんです。中には代々続いている借金のせいで奴隷堕ちになっている子供までいます。今回制定された奴隷法ですが、実は借金を引き継いだ子供達の奴隷化にしては救済されていないんです」


「えっと……奴隷に対する王国法は変わったのではないんですか?」


「奴隷に対するモノは変わりました。でも借金・・に関する法は変わってないんです」


「え、えっと…………」


「本来なら借金を奴隷商人が肩代わりして買い取る事になっているのですが、こうしてまだ働けない子供達がそうなった場合、まだ働けないという判定に、奴隷法として停止状態になるんです。だから彼らは成人するまでずっと奴隷予備軍・・・になってしまうんです」


「奴隷予備軍……」


「まだちゃんとした奴隷の判定ではないので、自由もなく、奴隷として働くこともできないので、旅立ちもできないんです。彼らは10歳になって働けるようになってから、ようやく奴隷法が適用されます。それから3年もしくは5年働くちゃいけないんです」


「そう……だったんですね…………」


 シャロレッタさんが凄く悲しそうな表情で俯いた。


「あっ! ご、ごめんなさい! こういう話は面白くないですよね。えっと、これから――――」


「アベル様」


「は、はい?」


「私はまだアベル様がどういうお仕事をやっているのか、全部理解している訳ではありません。ですがアベル様は奴隷達のために……人のために頑張っているのは分かっています。アベル様のお仕事の話はとても楽しいです。これは本心ですよ?」


 ううっ!?


 シャロレッタさんの笑顔が…………破壊力が抜群すぎて直視できないよ!


「ですから、私の顔色なんて気にせず、アベル様が楽しいと思うところを見せてください」


「シャロレッタさん…………はい! でも何か気になるところとか、変えてほしいところがあったらすぐ言ってくださいね?」


「はいっ! それはアベル様もですよ? 私も頑張りますから!」


 少しだけシャロレッタさんと本音を言い合えた気がした。

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