第24話 奴隷商の息子とパーティー
「あ、アベル。落ち着いて。手と足が同じ方向が上がっているわよ」
「へ? は、はひ!」
「だ、ダメだこりゃ……」
ここは……どこ?
僕は……誰?
僕は…………シャロレッタ? へ?
「アベル。こちらを見てちょうだい」
「はうぃ」
「さあ、深呼吸するわよ」
母さんに誘われるがまま、深呼吸を行う。
僕はどうして深呼吸をしているのか。
「アベル! 呼吸も忘れてるよ! 落ち着いて!」
「はっ!」
「すう~はあ~」
「すう~はあ~」
「すう~はあ~」
「すう~はあ~」
「よく聞いてちょうだい。アベル。これからアベルはシャロレッタ令嬢と婚約を行うの。分かる?」
「アベルは――――シャロレッタと――――婚約――――」
「そうよ。アベルは貴方よ? さあ、自分の名前を言ってごらん?」
「僕。アベル」
「うんうん。婚約者の名前は?」
「アベル」
「はぁ……どうしよう…………いつもしっかり者のアベル。帰って来て~」
一体母さんは何を言っているんだ?
シャロレッタ令嬢……?
シャロレッタさん…………?
その時。ふと、僕の脳裏にエリンちゃんの悲しそうな笑みを浮かべた顔が思い浮かんだ。
「エリンちゃん……?」
「違うわよ? エリンちゃんは聖女様でしょう?」
「う、うん。お母さん。ここはどこですか?」
「ここはシアリア男爵様の屋敷の前よ?」
「…………シャロレッタさんが?」
「そうよ? 今日はアベルとシャロレッタ令嬢の婚約発表日なのよ?」
「僕と…………」
シャロレッタさんと初めて出会った日の事は鮮明に覚えている。
異世界だからなのか美形は多いのだけれど、その中でも群を抜いて視線が外せられないほどに美しい。
会ったのも、たった2回しかないから、彼女がどういう性格なのかも分かってない。
だから美しさだけで惚れるかと言われたら、違うとは言えないかも知れない。
でも、少なくとも僕が出会った人々の中で、誰よりも綺麗で澄んだ瞳をしていた。
初恋と言っても過言ではないかも知れない。
そんな彼女と婚約…………でも彼女も僕もまだお互いを知らなさすぎる。
もしかしたら親が勝手に決めた婚約かも知れない。
だからこそ、僕は決心した。
「お母さん」
「う、うん?」
「行きましょう」
「えっ!? だ、大丈夫?」
「僕はもう大丈夫。ありがとうございます。お母さん」
「そ、そう? えっと……アベル。頑張ってね。お母さんは応援しているよ」
母さんの言葉に笑顔を見せた。それが一番の返事だと思ったから。
◆
華やかなパーティーが開かれているホールの脇で、父さんと母さんと一緒に端で食べ物と飲み物を楽しんでいる。
周りは貴族や今に売れていそうな大きな商会の家族を多く見かける。
シアリア男爵が王国でも一番勢いがあり、今代で子爵にも上がれるかも知れないと噂されるほどだからこそ、ここまで今勢いがある人々が集まっている。
父さん曰く、貴族の中には子爵家の者や伯爵家の者までいるそうだ。中でも伯爵家の使者はかなり大きな影響力は計り知れない。
「あそこの家族。ダサいわね。どうしてあんな田舎者がこんな場所に?」
「どうせ、シアリア男爵様の威光にあやかるためだろう」
あからさまに僕達家族を見て、どこかの商会の者がこそこそを言い始める。
「あの子みてみて、あんな派手な服を着てきて、貴族も多い中、平民如きで子供にあんな服を着せる親も親ね」
…………確かに言われた通りだ。
奴隷商会は元々王国最大手トエネス奴隷商会の者しか認めていない。
だから僕達シュルト奴隷商会なんて誰も知らないはずだ。
「……アベル。ごめんな」
「お父さん。顔をあげましょう。僕達を選んでくださったシアリア男爵様に失礼だと思います」
「っ!? あ、アベル…………そうだったな」
「ふふっ。さっきまであんなに緊張したのに、急に大人になったみたいだね」
…………エリンちゃんの悲しそうな笑みを見た時、色んな感情が溢れて来て、しっかりシャロレッタさんとも向き合わないといけないと思ったら、冷静になれた。いつかエリンちゃんにも感謝しなくちゃね。
華やかなパーティーは僕達家族を置いてけぼりにして、どんどん時間が過ぎて、上階からの階段に人影が現れる。
「皆様! シアリア男爵家の三女。シャロレッタ様でございます」
煌びやかなホールでもシャロレッタさんが降りてくると誰よりも美しく、10歳というのにその美貌には子供大人男女関係なく目を奪われている。
もちろん、僕もその中の一人だ。
ホールの明かりを受けて、一段ずつ下がる度に揺れ、波打つ真っすぐに伸びた金色の髪は、どんな絶景の景色よりも素晴らしい。
階段を中段まで降りたシャロレッタさんがホールに向かって、一礼すると割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
――――こんな美しい方が僕の婚約者になる。
今でも信じられなくて、もしかしたら僕の名前を呼んで、笑い者にしたらどうしようと心配になる。
でもあのシャロレッタさんがそんな事をするはずもないし、シアリア男爵もそういう方ではないと知っている。
だからこそ、僕の胸が高鳴る。
挨拶を終えたシャロレッタさんの視線が僕に向けて笑顔を見せた気がした。
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