第22話「安全装置」

B班をトイレに連れて行くと、清掃用のホースと蛇口を使い、火傷した班員を流水で冷やした。


A班に報告した。無線に出たA班はよい報告をくれなかった。


「こちらも襲撃に合った。ギャングと撃ち合いになり数名射殺した。こちらも2名が負傷した。」

とA班


「ギャングの中に、軍人のような恰好をした男がいた。PD団と思われる。手から砲撃のようなものを出す奴がいる。あとは、スーツを着た痩せた男だ。こいつらは鼻から投降する気もなく攻撃してきた。」


「いま、どちらですかA班」


「医務室らしき場所だ。運よくだれもいなかった。薬品を使って応急処置をしている」


B班員たちの顔も曇る。



「B班。一旦合流しよう。合流して救援を待つのが最善だ」A班が無線で言った。

「了解だが、こちらの負傷者は動かせない。ひどいやけどを負っている。流水で冷やしているんだ」


「A班の負傷者は全く歩けないのですか」平治がB班の班長へ言った。


「B班からA班あて、負傷者は全く歩けないか?」とB班長。

「サポートがあれば可能だ。銃撃を受けて筋が壊れたらしい」A班が無線で答える。


「よし、俺が行ってきます」平治が言った「カービンと防弾チョッキを貸してくれれば、A班のいる医務室まで手伝いに行ってくる。B班の方々は負傷者を護衛していてください」


「しかし…」B班の班長は反論しようとした。だが、先ほどの平治の戦闘技術を見ては反論の余地はなかった。

「わかった。我々は、負傷者を守っておく。そのカービンを持って行ってくれ。おい、防弾ジャケットも渡してやれ」班長がそういうと、最も体格のいい班員が防弾チョッキを外し、平治に手渡した。


平治は一度、ポリマー防護服を脱いだ。

そして、警備服を脱ぎ、シャツを脱ぐ。


B班員と垣は言葉を失った。


異常なほど発達した筋肉は、さしずめ岩の塊のようであった。

僧帽筋、大胸筋、三角筋は盛り上がり、筋肉繊維に沿った筋が入っている。

逆三角形の体幹、盛り上がる広背筋と張り出した大円筋

古代ギリシャにおける筋肉礼賛の彫刻さながらであった。



そして、体には無数の切創、そして、銃創が、腕や腹、胸といたるところにあった。


平治はシャツで体と顔を拭くとシャツを絞る。汗が滴り落ちる。

暑かったのか緊張なのか分からないが、激しく汗をかいていた。


「戦闘の経験があるのか」B班長が言った。


「多少」と平治。


「体の傷は?」班長が聞く。


「その時」と平治。

平治は汗と、煤をぬぐうと、シャツを着た。


「なんで警官を?」と班長


「死にたくなかったから」平治は防弾チョッキを着こんだ。「そして今も死にたくない」


「君なら生き残れそうだな」班長が言った「だれか御付きをつけようか。B班員を連れていくか?多少はサポートできるかもしれん」


「そうだな」平治が言う「じゃあ、垣さん」


「なんで俺なんだよ!話の流れからおかしいだろ」垣が叫んだ「お前みたいに筋肉だらけじゃないし、戦争だってやったことねえぞ!」


「垣さんも俺やB班員と同じ警官だ」平治が言った「垣さんといると運がいい。爆弾でも死ななかった」


「三度目は終わってるからな。知らねえぞ」垣はぶつくさ言いながら、B班員から防弾チョッキを借りた。


平治と垣が出発の準備を整えると、無線が入った。


「こちらA班氷上だ。こちらは根須部長と共にそちらへ向かう。小麦製造場で落ち合おう。ちょうど中間地点だ」


「B班了解。B班は五百川と垣巡査が向かう」


「A班了解。心強いよ」と氷上が言った。


平治は垣を見た。

垣は緊張している。

「ふー」とほおを膨らませ、息を吐き出している。


「垣さん」平治が言った「大丈夫か?来れるか?」


「ああ…仕方ねえよ。行くさ。訓練通りに撃ちまくってやる」垣が言った。虚勢を張っているのは顔を見ればわかる。


「撃つ前に安全装置を外すのを忘れるなよ」


垣はカービンを裏表と見回した。

「どれが安全装置だったっけ?」

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