第30話「濃霧の白兵戦」

濃霧の如く小麦粉を含んだ空気が立ち込め、視界不良の中、暴漢たちは平治達警官に襲い掛かった。


暴漢たちは、小麦の霧の中から突然現れる。


一人の暴漢が、霧の中から鉄パイプを振りかぶり、氷上に躍りかかった。


氷上は、すさまじい速さで暴漢のノドへ片手突きした。


ノドを刀型警棒で突かれた暴漢は、また濃霧の中へ吹っ飛んで行った。


間髪入れず、氷上の右側から先をとがらせた棒を持つ男が突進してきた。


氷上は刀警棒ではたき下ろす。

一瞬で男の手から棒が落ちる。


氷上が右肩に警棒を担ぐように振り上げ、男の顔面に叩き下ろす。

鼻から血しぶきを飛ばし、床に倒れる。


その倒れる男を見て、反射的に手を挙げて驚愕した別の暴漢に素早く氷上が近づく。


そして、鋭い担ぎ胴を食い込ませる。

ボキッという音を立てて暴漢の肋骨は砕かれ、暴漢は情けない顔をして膝をつく。


氷上の剣技は鋭さを増していく。

氷上自身、剣を振りながら、自信が望んだ実戦に心躍らせているに違いない。


氷上が華麗な剣技を披露するのと対照的に、血なまぐさい戦いを繰り広げているのは平治だった。


暴漢が頭部へ棒を振りつけてきた。

平治はそれを片手に持った警棒で受け止める。

「がきん」と金属同士が撃ち合う音が響き、衝撃が伝わる。

すぐさま反撃の頭突きをした。


平治のヘルメットが食い込んだ暴漢の鼻はひん曲がり、思わずのけぞる。

平治はすかさず男を掴んで、大外刈りで投げ飛ばす。


倒れた男の顔面を、プレート入り警備靴で平治は蹴りつけた。


「このポリ公!」悪態をつきながら、ナイフを持った暴漢が平治につかみかかった。

敵は左手で平治の肩を掴み、右手に逆手でナイフを持っている。


平治はすぐ左手で、敵のナイフを持つ右手を受け止め、右脇で肩を掴んできた腕を抱えた。


すかさず頭突き。

平治流は、髪の生え際付近で押し出すように当てるのがコツである。

ヘルメットを装着しているので相手の被害も甚大であった。

敵の鼻を折ると、今度は右脇に抱えた暴漢の左ひじをねじ上げ、脱臼させた。


平治はナイフを持つ暴漢の手を掴み、小手返しの体制にねじり返した。


ナイフ暴漢は手首を無理矢理内側に曲げられ、ナイフを取り落とした。


平治は、その手首を離さず、暴漢の顔を見て不敵にほほ笑んだ。


暴漢が手首の痛みより強く、背筋に冷たいものを感じた瞬間だった。

平治は小手投げで暴漢を地面に叩きつけ、警備靴キックを叩き込む。

暴漢は白目を剥いて失神。


「お前は暴力を楽しんでる、警官失格だ」氷上がそれを見て笑って言った。


「あんたもな」平治は笑って返す。


「平治!!何とかしてくれ!」垣の叫び声が聞こえる。「この野郎!やめないと俺の相棒のゴリラに殺されるぞ!」

見ると、垣と棒を持った男が取っ組み合いして、拮抗した状態であった。


同じように、根須も取っ組み合いして拮抗している「てめえ!俺が刑事(デカ)だってわかってんだろうな、畜生!」

二人とも腕力は大したことがないが、口は盛んに動いている。


「やれやれ」平治は自分が倒した男をまたぐと、二人の援護に近づく。


その時、平治だけ直近周囲に敵がいなかった。


その時だった。

暴漢たちから離れていたバンダナ男が叫んだ。

「スキありだぞ!ファシストの犬が!」


うかつだった。

男の手に装着された大砲が火花を出さずに発射された。

火器は使えないはずだった。


男の手から放たれた砲撃は、振り向きかけた平治の頭部へ直撃した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る