第27話「革命のプレリュード」
「滝町 一(たきまち かずみ)」
日本軍属幼年学校より軍の薫陶を受け、15歳にして少年兵団の前身である、日本陸軍属兵科高等学校に入隊。
さらに、日本軍実働の中枢である「日本特殊作戦軍」隷下の「陸戦隊特殊作戦コマンド」に所属。当時階級は大尉。
幼少の頃より、軍人としての天賦の才を持ち「日本軍最強の陸軍兵士」と呼ばれた。
人により単に「日本軍最強兵士」とも呼ぶ。
当初の所属が陸軍であったが、空軍、海軍、陸戦隊、宇宙軍など、どの軍でもそのあだ名に異を唱える者はいなかった。
だが、ある年の「遠洋島武装偵察作戦」において、滝町大尉は反逆を起こした。
戦友であり、部下のコマンド隊員達を多数殺害。
生き残った少年コマンド隊員のひとりと戦闘となり、少年コマンド隊員を退けると以降の消息は不明。
これが軍の記録である。
直後、遠洋島は外国勢力に実効支配された。日本国は大きく領海を失った。
滝町大尉は反逆者として日本軍から追放。一切の地位をはく奪され、「戦時反逆罪・外患誘致罪」により日本政府から国際手配されている‥。
少年であった五百川平治に、兵士のイロハ、戦闘のノウハウを叩き込み、軍人として育て上げた男である。
そして、遠洋島の武装偵察で平治と戦った男。
平治の投げたナイフは滝町大尉の顔に突き刺さった。それが平治の見た最後の姿だ。
「『牙』のリーダーは、日本軍最強の陸軍兵士と呼ばれた男よ」死した溶接マスクはそういった。
滝町大尉は生きているのか。
戦争を忘れ、軍隊を去り、仲間の非業な死から耐えがたい憎しみを抱えた。
平治は、何度も「いつか必ず殺してやる」と復讐を誓った。
だが一方で恩義と畏敬の念と信頼を寄せていたあの男…。
信じたくはなかった裏切り行為…
平治はその心のジレンマに耐え切れず、軍を去った。
平治を気にかけ、生きる術を教えてくれた滝町。
そして、滝町を信じ、裏切られ無惨に死んでいった戦友たち。
平治はその全てを忘れようとした。
体の銃創は残っても、心の傷は消え去ってほしい。
平治はそう願って軍を去ったのだ。
だが、生きていた。
そして、溶接マスクの野郎が真実を語っているなら、滝町大尉は再び敵として立ちはだかろうとしているのかもしれない。
「おい!平治!」氷上の呼びかける声で平治は現実に戻った。「大丈夫か?頭をケガしてるのか。ぼうっとしてるぞ」
「すまない」平治は言った。「疲れてな、ついぼうっとしてしまった。」
「無理もねえよ。この戦闘の後だ。」根須は穴の開いた廊下、粉塵爆発のあとを指さした。「お前ら軍隊かってくらいの戦闘能力だな、ほんとうに。後始末の事を考えると頭が痛いよ」根須が笑う。
「自分が生きてるのが信じられませんよ」垣が言った。「平治といると命がいくつあっても足りない」
「氷上さん、根須部長。『牙』ってわかるか?火炎放射機を持っていた野郎が言っていたんだが」平治が言った。
「何、あいつ『解放の牙』なのか?」氷上が驚いたように言う。
「あいつは違うと言っていた。上にそんな奴らがいると」
「『解放の牙』はポリティカル・ディフェンダーズが抱えている、テロ・ゲリラ部隊だ」と氷上「奴らは金で集めた元軍人や特殊部隊員をテロ・ゲリラ部隊として運用している。最近は聞かないが、外国のテロやゲリラにもこいつらが一枚噛んでるという噂さ」
「警察にとって脅威なのか?」と平治。
「ああ。外国で要人暗殺や誘拐、爆破テロなんかに関与しているんじゃないかと言われている。本庁は半分傭兵みたいな連中じゃないかと見ているがな。だが、ポリティカルディフェンダーズは部隊の存在を否定してる。非公然部隊というやつだよ」
「アメリカにあった、対テロ部隊みたいなもんか」垣が言う。
「衛星にある車のナンバー読み取り装置も、本庁は存在否定してるぜ」根須が笑って言う。
「もし、『解放の牙』が絡んでいるんなら」氷上が言った「割と本気で革命行動を起こそうとしているかも知れませんね」
「革命?日本を乗っ取るってこと?そんなバカな」垣が言う。そして、垣が言葉に詰まった「あ、いや、溶接マスクの野郎『革命』って死ぬ間際まで連呼してた」
「荒唐無稽に聞こえるかもな。でも実際に存在してるんだ」平治が言った。「『革命』なんて言って武器を持つ奴は沢山いる。特に衛星じゃあ政府とそいつらの対立が顕在化してる。地球なら、知らないやつにはバカバカしい話にしか聞こえない」
「知らないやつって‥地球にもこんな対立あるってのか?」と垣。
「俺の体に銃創があるのは便所で見たろ?こいつは地球で受けた傷だ」平治が言った。「平和なんてまやかしさ」
「平治よ」根須が言う「死んだ野郎は、『牙』についてなんて言ってた」
「『牙』の連中が、俺たちの実力を測りかねてるんじゃないか…と」
根須は顔をしかめ、氷上は顔をひきつらせた。
「すぐにでも本庁へ報告したいところだ。『牙』の連中が絡んでるなら、ヤバいぜ。この案件は」
「ただ、ヤク中の一人を職務質問しただけだったのに…」垣はつぶやいた。「なんでこんなことになるんだよ」
「氷山の一角っつーか、先っちょに触れてしまったんだろうな。でっかい氷山の」根須が笑って言った。
「とにかく、生きて帰りましょう」氷上が言った。「我々はもう捜索や捜査をする段階にはいません。サバイバルです。こうなれば」
「はやく地球に帰りたい」垣がこぼした。「殺し合いなんて冗談じゃねえ…」
「垣さん。生きて帰ろう」平治が声をかける「安心してくれ、俺は捜査の書類を書くより、銃の撃ち合いや殴り合いの方が得意だ」
「だろうな!」垣が叫んだ「でも、今は平治がいてくれてよかったよ。いや、ほんとマジで」
4人は、話しながら、やや緊張をほぐし歩き始めた。
だが、そのせいで後方で様子を窺う男に気が付かなかった。
その男は、赤いバンダナを巻き、片手を銃器のように改造した男であり、敵意に満ち満ちた表情をしていたのだった。
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