第16話「製粉工場事件」

ネオシティ東区の、未だ人口森林がある郊外。

高級住宅街からやや離れた場所、森林に囲まれた人目につかない場所にその工場はあった。


小麦粉や米粉を加工し、麺や食品を製造している「台マル製粉東区工場」である。


同所は地元の製粉会社でありながら、犯罪シンジゲートとの繋がりがあると噂になっていた。


地元企業と、犯罪組織との付き合いは、都市勃興の歴史からは切り離せない。


それは日本でも、地球でも、衛星でも同様であった。



公安捜査員は武器らしき、それも火器らしきモノが運び込まれるのを、張り込みにより目撃したと報告した。


その報告もあり、労せずモヒカンの立ち回り先と言うだけで捜索令状発布は容易であった。


なにせ、モヒカンは当局にとって、薬物売人であり、武器商人であり、雑居ビル爆破事件の重要参考人であるからだ。


雑居ビル爆破事件で、警官が重傷を負ったため人員も増員している。


雑居ビルでは5人の突入分隊が1個班、外周部隊が1個班であった。


今回は突入部隊として、5人の分隊が2個班、さらには、外周を警戒する大盾を装備した警戒部隊も配置されることとなった。


その中で、警戒部隊員として平治と垣が駆り出されていた。


輸送バスはまだ暗い早朝の郊外を走る。


垣は神妙な面持ちで座っている。

脳裏には爆破事件の光景がこびり付いているに違いない。


平治はカフェイン入りドリンクを飲んできて目が冴えている。

前回垣に注意されたからだ。


防犯や事故防止のためか、大規模工場は敷地内を大きなフェンスで囲っていた。上部には有刺鉄線が張られている。


警察バスがゲートに入る。

守衛が困惑していたが、指揮官が「強制捜査だ」と告げ、内部に進入した。


直ぐさま外周部隊が正面玄関の周りを固める。正面玄関は木目調で、透明ではない。

社屋内が見えないようになっている


そして、突入部隊が正面玄関に近づき、傍らには後頭部に傷を作った根須がいた。


平治と垣は、外周部隊の端に待機した。

装備は、ポリマー防護服、警棒、樹脂製の手錠、回転式拳銃だ。弾丸は5発。


「平治!」と垣が突然叫んだ。

「ヤバイ、漏れそうだ!昨日飲みすぎたのかも!」


「だから神妙な顔してたのか。我慢しろよそのくらい」と平治。


「無理だよ!ヤバイ、なんとかしないと防護服汚してしまう」

垣がソワソワしながら叫ぶ。


平治はあたりを見回す、偶然にも、人ひとり通れる程度にフェンスが裂けている箇所があった。


垣の手を引っ張って外周警備から離れた。

フェンスの穴を通り、雑木林の木陰へ行く。


「あと10分だぞ!そこで済ませろ!」平治が言った。


草かげに隠れながら、垣は用をたそうとしている。工場の裏側に差しかかる場所で、入り口と側面、裏側が見通せる。


その時だった。


平治は垣の頭を茂みに押さえつけた。

「おい!なにをする」と垣。

平治は茂みの中にもぐり、指を差す。


工場の裏側で、三人の男が歩いていた。


1人目、中背の男で背中にバックパック型の2つのタンクを背負っている。そして赤色スカーフを首に付け、都市迷彩の戦闘服を着ている。


2人目は大きな男で、大きなカバーを右手に巻いている。警察犬訓練のような出で立ちである。その男は赤色のベレー帽に戦闘服である。



3人目はツイードのスーツに、頭部全体を覆う電子ヘルメットを装着している。顔は全く見えない。


3人は急ぎ足で裏口から工場内へ入った。


軍隊上がりの平治は、一人目の男が背負っていたのは燃料タンクと圧縮空気タンクである事は直ぐに分かった。


火炎放射器のバックパックである。


「外周警備五百川から、中隊長」平治は指揮官へ無線する。

 今回は秘匿のため骨伝導イヤホンを右耳付近に部隊員全員が装着している。


「中隊長です。どうぞ」無線が返ってくる。

「工場裏にて武装した男らを現在目視確認。赤色のスカーフ、火炎放射器と見られるタンクを背負っています。工場内へ徒歩で進入しました」


平治が無線を打つと、しばらく返答がなかった。


「中隊長から只今の局。尾行できるか?」

「了解」平治はゆっくりと立ち上がり、用を済ませた垣について来るようジェスチャーする。


「おいおい…マジかよ」垣が呟いた。 


「中隊長から只今の局、突入を早める。無理はするな」


「了解」と平治



「中隊長から各局」無線が流れた。

「着手。各員警戒しろ」


予定では根須刑事がドアホンを押し、令状を示した後に工場内へ入る算段であった。


当然、無抵抗なら発砲しない。



無線が終わると、突入班がマイクロスコープを使い、入り口が閉じた状態のまま内部を確認したようだ。


「A分隊から。正面口ドア、クリア。人員なし」

スコープを覗いたらしき隊員が無線を打った。


平治と垣は裏口ドアの前に立っている。

垣が言った「こっちは罠とか大丈夫かな」


「さっきの奴らが入ってからそんなに時間は経ってない。多分大丈夫だ」と平治「ちょっと離れてろ」


垣はドアから離れた。

平治は極めてゆっくりと、慎重にドアノブを回し、手前に引く。

鍵もかかっていない。ノブやドアを動かしても仕掛けが作動するような異音はしない。


平治はドアを開けた。

中には誰もいない。裏口へ入ると廊下が広がって、出入り口付近にタイムカードの機械がある。


平治と垣は中に入った。


「A分隊、進入」

「B分隊、進入」


無線が流れる。


突入班は工場内へ進入したようだ。


その時だった。

地鳴りのような振動とともに、防火扉が激しく閉まるような音が響いた。


突然慌てた無線が流れた。


「A班から各局!突然シャッターが降りて閉じ込められた!屋内から出られない」


「B班から各局、B班出入口もシャッターされた!」




平治と垣の後ろ、今しがた入ってきた出入口も「がちゃん」と大きな音をたてて施錠された。

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