第17話「鬨の声」
平治はドアに近づき、ドアノブを回して、引く。
やはり施錠されている。
「中隊長から突入班へ!至急入口をこじ開ける。ドアから離れろ」指揮官の無線が飛んだ。
その時だった。
工場の外周から、鬨を上げるような声が聞こえた。
それも多数。
おそらく、外周より外側である。
「なんだこれは…」中隊長の無線が、プレストークではなく、自動で音声を拾うモードに切り替わっている。
「中隊長から、本部!中隊長から本部!」慌てた声で中隊長が警察の対策本部を呼び出している。
「対策本部です、どうぞ」
「集団が森から現出しました。一見して…50、いや100人はいます!向かってくる!」
「対策本部から中隊長。落ち着いて報告せよ。何の集団か?どうぞ」
「過激派です!ヘルメットを着用!スクラムを組み始めています!」
「過激派ようの集団現出了解。武器の所持はあるか?どうぞ」
「武器あるか?!見えるか?」中隊長が周囲の隊員に激を飛ばしている。
「武器の所持は不明!手には何も持ってない!」
「それでは警戒せよ。どうぞ」と本部。
「大至急応援願いたい、どうぞ!」中隊長が音声が割れるほどの声で言った。「おそらく、突破してきます!」
「本部了解であるが…動員できる部隊を至急調整する。しばし警戒を怠るな、待機せよ!どうぞ」
「了解!」と中隊長「クソが!」悪態も音声を拾うモードでは無線に乗ってしまう。
平治が無線に聞き入る。垣が聞いた。
「よお、平治。外周部隊って50人だよな?」
「そうだ。」
「過激派って、やっぱりそんな連中がいるんだな。何しに来たんだろう」
「俺にもわからんよ。ただ、中隊長のテンパリ具合からすると、敵意剥き出しに向かって来てるんだろうな。」
「50人で100人を阻止できるかい?」
「出来ねえよ。スパルタ戦士じゃないんだぞ。まあ、地球の警官とは違うだろうが」
「諸君、我々は現在、爆発殺人未遂事件の強制捜査を実施している」中隊長がトラメガで怒鳴る声が聞こえる。過激派の集団に呼び掛けているのだろう。「妨害すると、職務執行妨害に該当する。直ちに解散しなさい」
その呼びかけを中隊長は繰り返している。
しかし、中隊長の意図に反し、鬨の声はどんどん大きくなっていく。
「平治、俺たちはどうする?」と垣。
平治は周囲を見回す。先ほどの武装した男たちは時間が経って、もう行ってしまったようである。
出口の扉を開けようにも開かない。
「あの火炎放射器の奴は行ってしまっただろうな。」と平治が答えた。
「外に出て外周警備に加わるのが正解だが、鍵が開かないと無理だな。窓を探そう。」
「探索だな…」と垣。
垣は警棒を取り出した。
顔はこわばり、うろたえた目には怯えが見える。
「垣さん、これを外しておこう」
平治は拳銃ホルスターのストッパーを外した。
ホルスターはストッパーを外し、ふたを開き、拳銃を取り出す仕組みだ。
これで、ストッパーを外し、ふたを開け…の二段階行動が一段階短縮できる。
「至急、至急!本部!本部!」中隊長が金切り声で無線を流す「奴ら大勢で向かってくる!」
外から聞こえる鬨の声は、最高潮に達していた。
平治らにも、地鳴りがするような大きな音で聞こえる。
「本部です。しばし応援は待て、待機せよ。警戒は怠…」
「本部!至急応援を!」中隊長は必死に叫んでいる「とまれえええ!総員、阻止隊形に!かまえ!!」
時代劇の合戦のような鬨の声と、人間同士がぶつかる荒々しい音が響いた。
中隊長の無線は途絶えた。
垣は茫然として、平治の顔を見た。
平治は時計を見やり、言った。
「先を急ごう」
平治と垣が工場の内部へと向かい始めた。
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