第15話「平治のやさしさ」

雑居ビル爆破事件から四日…


爆破現場の検証の結果、モヒカンの住み家であるビルの一室にはだれもおらず、薬物も武器のあった痕跡もなかった。

モーションセンサー型のプラスチック爆弾が使用された可能性が高いとのことであった。


ただし、ほぼ現場が壊滅状態で物的証拠がなく、ギャングとも武装組織とも判別できないとのことだった。


ギャングなら指紋やDNAを残すくらいのヘマはしそうだ。

武装組織の仕業じゃないだろうかと平治は思った。


平治は警察部宿舎から近いコンビニで新聞を買った。

なんの新聞か見もしていない。

とりあえず、街の様子が知りたい。


アイスカフェオレと新聞を買い、宿舎に戻る。

ソファベッドに横たわる。

ストローから甘いカフェオレをすすりつつ新聞を広げる。


新聞には

「雑居ビルの悲劇!労務者いこいの宿が爆破される。犯罪者等はおらず、警察部の暴走か。泣き崩れたビル所有者」

と週刊誌じみた見出しが書いてある。


そこには、かねてからの治安悪化を改善できず、議会に対して街から泥を塗られ続けた警察は、労務者や浮浪者といった社会的弱者の住む雑居ビルを、捜索と見せかけて爆破し、弾圧を図った…。

とある。


平治は顔をしかめて、新聞名を見る。

「連島解放新聞 平和と自由を愛する連島市民の会発行 連島中央ユニオン協賛」


平治は新聞をくしゃくしゃにして柔らかくすると、鼻をかんで捨てた。



平治は警察部の道場に併設されたジムに行き、ベンチプレス、デッドリフト、懸垂で汗を流した。

そして、トレッドミルで20分ほど走ると、吊るされたサンドバッグを叩いた。


ジャブ、ワンツー、フック、ミドルキック、ハイキック、対角線コンビネーション


派手にバシバシ叩いていると、後ろに人がいることに気づかなかった。


氷上だった。引き締まった体にTシャツを着て、部隊服のズボンを履いている。


「元気だな」と氷上。


「瀕死だった奴はどうなった?」と平治が聞いた。


「意識は戻ったよ。脚は戻らないがな」

「そうか…よかったな。生きていて。」平治が言って、グローブを外す「退職か?」


「まだわからない。仮に退職になっても給付金は出るはずだがな」氷上が言った「筒山のやつ、放心状態だったよ」


「そうか」平治はスクイズボトルから水を飲んだ。


「過酷な訓練をしていたが、現場はあまりにも無情だ」氷上は冷笑的な笑顔を見せる。

「軍隊じゃそうだった。死ぬほど訓練して晴れて特殊部隊になっても、出撃中に輸送機の墜落で死んだ仲間がいたよ。惜しい命だった」


「そうか。まあ、そうだよな」と氷上。


「そうだ。訓練で流した汗が多いほど、実戦で血が流れる量が減るとはいうが…現実は何が起きるかわからない」



平治はもう1セットのグローブを用具置き場から取り出した。

「氷上さんだったか?なんか心に引っかかるなら、スパーリングでもするか?筋トレでもいいが…」


「それはお前さん流のやさしさかい?」氷上が噴き出した。深刻な顔が緩んだ。「遠慮しとくよ。平治とやったら俺は余計にストレスを溜めそうだ。メタクソにやられてな」


「そうか」平治は、もう1セットのグローブを元の場所に戻した。


「それに、俺も平治も今はケガできない。おしゃべり垣君もな。次が決まったよ」と氷上。「三日後、午前5時、警察部第1会議室集合。警備服、半長靴。前回と同じ、俺はドアキッカー、君たちは窓ウォッチャー」


「場所は?」と平治


「東区の郊外、製粉所がある。モヒカンの位置情報で頻繁に出てたところだ。一昨日武器が運び込まれるのをハムの工作員が確認した。」


「了解」平治が言った。平治は笑顔を見せる。


「楽しそうだな。」と氷上「俺も奴らに仕返しできると思うと嬉しいんだが。軍人の血が騒ぐのか?」


「いや…」と平治「垣さん、これを知ったらどんな顔するかと想像するとおかしくってな」


氷上は笑う平治の顔を複雑な表情で見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る