第6話「ポリティカル・ディフェンダーズ」

吉和は近くの駐車場に車を駐めていた。


オリーブ色の、つや消し塗装で、四駆のSUVだ。


「軍用車かい?」と平治

「私有車だぜ」吉和が答えた。


車内には確かに武器はなく、小ぎれいで、独身の男が好みそうな芳香剤がダッシュボードに置いてあった。


やや狭いが、垣と吉和の連れが後部席に。

体格の大きい平治が助手席に乗った。


エンジンをかける。

ディーゼル車のカラカラとした音がする。


「こういう武骨なの好きでさ」吉和はそう言うと、左足でクラッチを踏み、左手でシフトレバーを操った。


「マニュアルトランスミッションじゃないか」と平治が言った。

「相当好きなんだな」


ルームミラーを見ると、何か言いたげな顔をした後部席の垣と目があった。


「ドライブがてら面白いものを見に行こうぜ」吉和がそう言って車を進ませた。


「何を見に行く?」


「お前達の宿敵だぜ」吉和はニヤッと笑った。



地理が全くわからないので、平治も垣もどこを走っているか見当がつかなかった。


ただ、インターチェンジに入り、高架道路を滑るように走った。


ネオシティの夜景が一望できる。

何層にも人口地盤があり、複雑にビル群が入り組んで建っている。


大小の派手なネオン看板が、街の青い光の中で煌々と光っている。


平治は少し窓を開けた。

冷たい風が頬をなでた。


「あんた強いな。元軍人なんだって?」吉和が言った。


「少年兵団に3年だけ。高校の代わりに」


「俺をひっくり返した技はどこで?なんて技だあれ」


「趣味で覚えた。道場に通ってた。柔術のラッソーガードからのスイープだ」


「ふうん。不思議だな。俺のような陸戦隊員すらのしてしまうタフガイが、どうして警官に?」


「軍隊が辛くなって、楽に生きたかった。思った程楽じゃなかったが」と平治。


「そんなもんかい」と吉和。「二種類いるな、軍隊上がりの警官は。軍隊よりマシっていう奴と、なんか違うっていう奴」


「俺はどっちでもない。給料さえもらえればいい」と平治。


「あんたらが来た派遣第二派の意図が分かる気がするぜ」吉和が言った。「第二派は徹底して腕っぷしで選んだんだな」

 

「俺は違うと思うよ。うん」垣が言った。


しばらく高架道路を走ると、眼下に基地らしきものが見えた。

広い敷地に、巨大な施設が浮かび上がった。

一見して赤色のレンガ調の外壁をした巨大な建物があり、周囲を囲むように、一回り小さな赤レンガの建物、倉庫がある。

敷地内にはグラウンドやヘリポートがあり、四角い軍用車のような車両が都市迷彩色で多数駐車されていた。


施設の外周は有刺鉄線を張り巡らせた、概ね4mはありそうな高い壁に囲まれていた。


よく見ると、入り口には詰め所があり、中庭には掲揚台がある。

軍隊のような都市迷彩の服に、戦闘(タクティカル)ベストを着て、赤色のバンダナやスカーフを巻いた連中が立っている。


掲揚台には、連島衛星の旗、そして、赤地に、黄色で盾と盾の周りに月桂樹が描かれている旗があった。

黄色い盾の真ん中には赤い星が描かれている。



「あれは軍隊か?」平治が言った。


「いいや、違うぜ」吉和が赤レンガ基地を一瞥して言った。「奴らが、お前さんたち警察とバチバチにやりあってる『ポリティカル・ディフェンダーズ』だぜ」


平治は座学でちらと聞いたのを思い出した。


「貧富の差をなくすため、国民の財産は全体で管理する。軍事独裁国家になるのを防ぐため、国軍と警察力は最低限に削減すべき」そう主張する勢力がいる。


軍事力を否定し、平和で貧富なき社会を作ると標榜する政治結社「ポリティカル・ディフェンダーズ」と名乗っている。


警察としては、国家転覆を目論む団体として監視を続けている…と。




「今から見学に行くぜ」吉和はそういうと、インターチェンジから高架道路を降りた。


平治はちらとルームミラーを見た。


垣が平治の方へ向かって、激しく首を横に振っていた。

そして「とめて」と口パクをしていた。


平治は肩をすくめた。

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