第13話「燃え盛るスラム」

激しく火花を散らす割れたネオンに、平治は閉口した。



廃ビルのような古いビルに、電線と様々な導線が巻き付き、安っぽいネオンが光っている。

そんなビル同士がひしめき、与太者やアウトロー達に寝床を提供している。





ネオシティのスラムは様々で、バラック小屋もあれば、長屋も、ロッククライマーのテントのようなビルに引っかかった小屋も、道路に厚紙で作ったベッドもあり多種多様だ。



雑居ビルに住めるのは、はみ出し者の中では成功者であると言えよう。



「平治、垣」根須捜査員が言った。「お前たちは外で見ていてくれ。モヒカン野郎が窓から飛び出して逃げないようにな。逃げたら平治よ、縊り殺してもいいぜ」



氷上はヘルメットのバイザーを降ろす。その瞬間、ヘルメットのスピーカーから声が発せられた。

「平治、血が騒ぐだろうが…まあ見ててくれ。警察特殊のやり方を見せるさ」

氷上はそう言うと、部隊の隊列に加わる。



平治は、先程からこの二人がやけに馴れ馴れしく話しかけてくるのが不思議だった。



垣は平治の顔を見て肩をすくめる。



機動部隊の現場指揮官がホログラムで雑居ビルの見取り図を表示し、簡単に説明した。



玄関から強襲し、無力化した後、捜査員が進入。武器取引や薬物取引の証拠を探す。



抵抗したら撃つ。

窓から逃げたら、外の部隊員が取り押さえる。



指揮官の横では青い顔をして、作業着を着た老人が立っている。

「機動部隊の旦那…お願いしますよ。薄汚いビルですが……わしには生活が掛かった大切な貸宿なんだ。ブッ壊さないで下さいましよ…」

老人が懇願する。老人は雑居ビルの所有者である。





指揮官は無言で「捜索令状」を老人に突きつけた。

そして、部下がその様子を写真に撮る。



雑居ビルを囲むように数人が配置。その中には平治と垣がいた。



突入部隊5人が隊列を組み、大きな盾(シールド)を持った隊員が先頭に立つ。3番目はドアを破壊する取っ手のある筒状の棒「バッテリングラム」を持っている。最後尾は氷上である。



その後ろには根須がゴム手袋をして立っている。



物々しい雰囲気を感じ取り、雑居ビルから与太者たちが慌てて飛び出した。



面倒事に巻き込まれるのを避けようとしたのだろう。



一人一人の顔を平治と垣は観察した。



指揮官がトラメガで怒鳴った。

「地球の二人!こいつらの中に例の奴らはいるか?」



平治は指揮官に首を振った。

指揮官は両手で「○」を作った。



そして、部隊は整然と突入の体制を整え、ビルの入り口に配置した。



突入は5時45分

現在時刻は5時40分

あと5分である。



垣は言った。

「平治、俺たちさ。閃光弾とゴム弾を食らったろ?」垣の目線は雑居ビルの窓を向いている。



「ああ」平治は垣を見た。



「俺の故郷には『二度あることは三度ある』って言葉があるんだ。」と垣。「何だか、うまく言えないが…嫌な予感がするんだ…」



「何言ってんだよ、突然」と平治「いい方に考えろ。その言葉が真実なら、万が一、三度目の爆弾攻撃があってもまた生き残れるって事だろ。心配するな」



「でもよ、『3度目の正直』って言葉もあるんだよ」垣が言った。



平治は垣のヘルメットバイザーを掴むと荒々しくガシャンと降ろした。垣はビクッと飛び上がる。



「不安を自ら作り出すな。集中しろ」と平治。



「あ、ああ。分かった!」垣は再び窓を見た。





5時45分

シールドの後方2番員がハンドサインを後方の隊員に送る。

そしてシールド隊員の肩を2度叩く。



シールドを先頭に、突入部隊はビル入り口に入った。後に根須も続いた。



そして、しばらくしてドアを激しくノックする音がした。

「連島警察だ!開けろ!」



しばらくドアを叩く音が響く。



平治らはビルの中の様子は分からない。

音だけ聞いている。



「こじ開けるぞ!」

隊員が怒鳴る声がした。



そして、激しくバッテリングラムを打ち付ける音がした瞬間だった。







窓という窓のガラスが消し飛び、雑居ビル内部から爆発音と衝撃波とともに激しく炎が吹き出した。







薄暗かったスラムは、一瞬にして燃え盛る炎の光で明るくなった。

















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