天壌霊柩 ~式神たちの旅~ 第11回

「へえ、クーちゃん、昔はコンビ組んでたんだ。クーちゃん&トビメちゃん――もしかしてラブラブ?」

 斎実が、あくまで斎実らしくつっこむと、管生くだしょうは憮然として、

「そんな仲ではない。お互い化けてからの仲間、色恋など無縁」

「むきになるところが、なんかアヤしい」

「もし俺とトビメがつがっていたら、今頃この国は、化けるオコジョで溢れかえっておるわ」

「……想像するだけで萌えつきそう」

 おまえらの方がよほど漫才コンビ向きだろう、と慎太郎は苦笑した。

 百合も苦笑しながら、

「なんだか楽しそうですね、くださんがいると」

 慎太郎は驚いて、

「百合さん、管生の声が聞こえるんですか?」

「いえ。それも気配くらいしか。でも、そちらのくださんがよくしゃべることは、祖母から聞いております。うちのトビメは鳴くだけだから羨ましい、そう言っておりました」

「へえ……そうなんですか」

 管生にも種々のバリエーションがあるのだ――。

 感心して言葉の続かない慎太郎を、管生は失望していると勘違いしたのか、

「確かにトビメは人の言葉を話さぬが、言葉の意味はちゃんとわかっておるぞ。それに、あいつには俺にできない技がある。鳥のように空を飛ぶのだ」

 慎太郎と斎実は目を丸くした。こちらの管生は状況に応じて体形と体長を自在に変えるが、さすがに空を飛んだことはない。

「……だから『トビメ』なのか」

「おうよ」

 これは一刻も早く両者の差異を研究しなければ――。

 慎太郎は、急いた気分で百合に言った。

「美津江さんには、明日、滝川村の御自宅に伺うとお伝えしたんですが」

「存じております。私が御案内いたしますわ」

「カーナビがありますから、僕たちだけで大丈夫です。こんな忙しい時期に、女将さんを煩わせるわけには」

「一日くらい、なんとでもなります。実際に宿を仕切っているのは番頭と女中頭、私は看板みたいなものですから。それに、途中にはナビがあてにならないような山道もありますし」

 確かに滝川村は、奥羽山脈の最奥に位置している。

 慎太郎は、以前フィールドワークで深山の集落に向かった時の、苦い経験を思い出した。ナビを信じて崖際の細道を命からがら走り抜け、ようやく目的の村にたどり着いてから、実は安全な裏道があると村人に教えられことがある。

 慎太郎は、相好を崩して頭を下げた。

「じゃあ、お言葉に甘えて、よろしくお願いします」

 向かいの斎実も、女将には愛想良く頭を下げたが、慎太郎には、少々むっとした視線を流した。

 なぜこの又従兄はとこは、いつも年増にばかり嬉しそうな顔をするのだろう。自分の方が年上だったら、楽に陥落おとせるのだろうか。

 しかし年の差ばかりは、どんなしゅを唱えても逆転のしようがない。


     *


 そして翌日、旅館の朝食を早々に済ませ、東の奥羽山脈を目差す。

 蛇行する山道を行くこと約二時間、鬱蒼とした大白檜曽オオシラビソの森を縫ってレンタカーを走らせながら、慎太郎は助手席の山室百合に言った。

「案内していただいて正解でした。カーナビは下の集落で終わりだし、今のトンネルなんか、ロードマップにも入り口が載ってないし」

 滝川村自体は、山間にも関わらず鮮魚店から電気店まで一通りの商店が揃っており、過疎化の兆しもなかった。しかし、その先に続くトンネルと未舗装道路の存在は、山際の雑貨店の裏手に、わざとのように隠されていた。

「集落の端から先は、全部、祖父母の私有地なんです」

 山室百合は、昨夜の渋い和装から一転、スマートなパンツルック姿である。実年齢は三十路半ばでも、今は慎太郎と数歳も違わない若さに見える。

「あのトンネルも、この山の奥に隠居所を構える時、文字どおり『隠居』したいとか言って、わざわざ掘らせたんですよ」

 慎太郎は、つい苦笑した。

「ずいぶん贅沢なカモフラージュですね」

 大企業の元オーナーなら、それくらいは可能だろう。長さは五十メートル少々か、幅も普通車がぎりぎりすれ違える程度だ。今転がしているFJクルーザーだと、単車くらいしかすれ違えない。

 一方リアシートの斎実は、思わずトンネルの出口を振り返って目を丸くした。

「自前で山にトンネル掘っちゃったんですか?」

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