天壌霊柩 ~式神たちの旅~ 第23回
民治老人と吉田が去り、今は伸次だけが脚を
美津江刀自は、まず室内にいた二人を、改めて慎太郎と斎実に紹介した。
「こちら、杉戸
その杉戸寬枝に、斎実と慎太郎は、まったく同業者の気配を感じなかった。
「そして寬枝さん、こちらのお二人は、御上斎実さんと御上慎太郎さん。まだお若いけれど、たぶんあなたのお母様よりも桁違いの力があるわ。特に斎実さんは、もうすぐ『
寬枝は、その名跡を知っていたらしく、息子より少し年長なだけの斎実に、改まった会釈を見せた。そんな古い名跡など知らないはずの伸次も、母親を見習い、
「それでね、寬枝さん。あなた方がここに隠れている理由を、哀川先生や御上さんたちにも知っていただこうと思うんですけど、よろしいかしら」
「……はい」
寬枝が覚悟したようにうなずくと、美津江刀自は慎太郎たちに向き直り、
「哀川先生は地元だから御存知でしょうけど、御上さんたちは御存知かしら。今、蔦沼市で大騒ぎになっている、中学校のいじめ事件」
「おおよそは耳にしてます。いわゆる文潮砲ですっぱ抜かれたり、国会でも問題になってましたから。ただ、蔦沼市の中学の話と聞いただけで、それ以上の事は知りません」
慎太郎の言に、斎実もうなずく。ネット界隈では、中学名や個人名の特定で大騒動になっているようだが、そもそも発信者不明の噂話を気にするほど、慎太郎も斎実も暇ではない。
「やっぱり日本中に、話が広がっちゃってるのね」
美津江刀自は言った。
「週刊誌やニュースでは、関係者全員が仮名になってるけど、実はいじめた生徒の一人が、この伸次君なの」
杉戸伸次は、全員の視線を集めてしまい、力なくうつむいている。
「……そうなんですか?」
哀川教授が意外そうに言った。
慎太郎にも、その少年がそこまで悪い人間には見えなかった。むしろいじめられる側に回りそうな、卑屈な少年に見える。ただ、隣の斎実の、異様な物を見るような厳しい視線から察するに、心の内はかなり汚れているのかもしれない。
斎実は形式的な結印や唱呪を行わなくとも、それらの儀式を精神的に行うだけで、同じ結果が得られる。つまり
美津江刀自が話を続けた。
「この子に聞いた話だと、彼の遊び仲間の女子生徒が、その被害者の女子生徒を嫌ってて、伸次君や他の男子生徒を、いじめに巻きこんだらしいのね。もう一人の男子は、やっぱり被害者の女子を嫌ってたから、喜んで話に乗った。そして伸次君は、特にその女子を嫌ってたわけじゃないんだけど、遊び仲間二人につきあう形で、いっしょにいじめてしまった――」
美津江刀自は、思わせぶりに間をおいて、
「――でもそれは、あくまでこの子の自己申告だから、本当のところは私にも判らない。寬枝さんだって、母親として子供を信じたいのは山々でしょうけど、やっぱり確信はないと思うの。なぜなら伸次君は、中学に入ったあたりから、その遊び仲間二人と無断外泊を繰り返したり、もっとたちの悪い年上の不良とつきあったりして、寬枝さんや他の家族とは、ろくに口もきかないような生活を続けていたから」
遠慮会釈もない言葉だが、美津江刀自の淡々とした口調に、反感や悪意は感じられなかった。彼女の神秘的な存在感そのものが、善悪や清濁を超越した中立性、いわば高次の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます