第26話
平日をいつも通りトレーニングに費やしながら待ちに待った週末。あれから春香さんはもう一度この道場を訪ねた後、正式に入門する運びとなった
テコンドーと空手では勝手が違うのでは?と危惧したが、テコンドーにも拳を使った突き技や、相手の体制を崩す投げ等もあるみたいで、主軸をテコンドーに置きつつ、空手の技も吸収するつもりらしい
まぁ1番の目的は遠慮せずにぶつかり合う、この道場の対戦相手だろうけど
朝目覚めて軽いランニングをして朝日を浴びる
本当はこの日はゲームの日と決めてはいるが、春香さんとの一件以来、活力が湧いて仕方ない
どうせこの後引きこもる事が確定しているならば、朝のこの時間も逆に心地よさすら感じるから不思議なものだ
シャワーを浴びて朝食を摂ったらいざゲームを開始
前と比較すれば、体型こそあまり変化は見られないが、明らかに前回よりも動きの良くなった“俺”が、ファンタジーな街の中を走り回る
その速度も速くなっているし、体力とスタミナのゲージも更に伸びている
動きを確かめる為に足を運んだ団長(鬼教官)の所では、更新ボーナスとして[鬼教官の拳鍔]に付与する属性を選び、それを貰えるようで、更に今回は知力も伸ばしたからなのか、[鬼教官でも分かるクラフト術]と言う本も貰えた
鬼教官でも分かる…………
製作者のなんとなく言いたい事は理解出来たが、意図がよく分からない
武器に付与する属性は、ハーピーに苦戦した経験を生かして[風]属性にしようかと思ったが、やはり一撃の男としてのロマンを忘れられず、[火]の属性を選択した
いずれ足防具にも付与する機会があれば、その時に[風]属性を付与するつもりだ。そうすれば、風の刃とかを蹴りで再現出来るかも知れない
今回で一通りの武具は整えられた
武器は火属性付与によりさらに攻撃力も上がったし、防具も頭と胴体はあのオーガから取れた素材で作られた物で、手はホブゴブリンから、腰はリザードマンで、足がハーピー素材からの物となった
見た目は正直良くは無いが、足りる素材で作っていったらこんなキメラ装備になってしまった
街で買う装備も有ったけれど、性能もそうだし、何より軽装しか装備出来ない……と言うよりしない俺にとってはここらが落とし所と言った所か
何よりこのゲームには自身にスキルのような物は発現しない
だから強敵と戦う為に装備でスキルを発現させる
オーガ素材の防具は防御力に優れていて、腕力に補正が掛かる
同様にホブゴブリンとリザードマン素材からは器用さ、ハーピー素材からは速度。と言った具合に自身の能力にちょっとした補正が掛かっている
もちろんオーガ素材からの防具は魔法攻撃に弱い等のデメリットも付いているが…
確かに考えて見ればどれだけ鍛えようとも、補正やスキルが無ければこのゲームでドラゴンでも出よう物なら、圧倒的理不尽の権化に勝てる道理は見当たらないだろう
これらのファンタジー要素がしっかりとあるからこそ、クソゲーの煽りを受けつつも着実にプレイヤー人口を増やしていっているのかも知れない
それでも驕ってはいけないのも、このゲームの怖い所。いくら強い装備を身に纏おうと、肝心のプレイヤーが貧弱であればゴブリンにすら勝てない
だからプレイヤー達はゲーム世界で強くなるために、現実世界で体力や知力を鍛える
知れば知るほど、やればやるほど、このCBWと言うゲームにハマっていく
謳い文句の体の変わっていく世界を体験していく
新しくなった装備品は“俺”を充分に強くしてくれた
攻撃力は前の比じゃない程に敵を簡単に倒していき、新しい防具は“俺”の体を確実に守り、減る体力も微々たる物
器用さがプラスされたからか、カウンターによるクリティカルの出易さとダメージも上がっているし、速度による補正の為かそのカウンターもいくらか楽に繰り出せる
それら効果は画面の外でみる俺に確実な変化を視覚から教えてくれるものだった
それにダメージを受けたとしても[回復の薬]で直ぐに回復出来るようになったのも大きい
以前から買おうと思えば買えたのだが、如何せん値段の高さに二の足を踏んでしまっていた
だけど鬼団長から貰ったクラフト術によって、回復の薬を作る事が出来るようになったのだ
回復量は、前に見たアキくんの物と比べると効果が少し落ちているように見えるが、その辺りの細かな所もこのゲームの魅力。効果を上げていくなら、更に知識を伸ばせと、そう言うことなんだろう
それを考えれば俺の読んでいたサバイバルの本入門編も決して無駄では無かった
お陰でクラフト術も出来るようになったし、これから先“中級”、“上級”と続編のサバイバル本を読む事は今この瞬間決定した
ゲームの為ではあるのだが、これらの知識が完全に無駄になるとは俺は思わない
いかなる知識で有っても、それらが有効に活用出来る場面というのは確実に有ると思うからだ
今ならいきなり異世界とかに放り出されても何とか生きていけるんじゃないだろうか?
新たな薬もいくつか作り、装備も整え、俺はやっと先に進む決心を固める
アキくんと一緒であれば次々に進む事が出来るかも知れないが、ソロプレイ時の俺は石橋を叩いて渡る慎重派なのだ。これだけの準備をして初めて動き出す事が出来る
次に目指すは2つ目の街[ラテスの街]
東西南北であらゆる環境のフィールドに向かえる街なので素材集めに適した街らしい
実際、かなり進んだプレイヤーでさえ、ここを拠点として活動する事が多いらしい
またアキくんと一緒にゲームできるまでに更に強くなるって宣言したしね
それは現実の[俺]はもちろんの事、ゲームの中の[俺]にも適用される
レベルは上がらないまでも、あらゆる魔物との“戦闘経験”や、新たな素材で装備を強化して行くことも[俺]の強化に繋がる事だろう
もちろん現実の俺も日々のトレーニングを欠かせないし欠かす気もない。アキくんとは別に、春香さんとのフレンド対戦も控えているからだ
フレンド対戦ではお互い装備は無しの素手で闘おうとの“お願い”が春香さんからもたらせているので、ゲームを如何に進めようとも俺が変わらなければ何も変わらない
今まで以上に日々が充実していく
ゲームで満たされていた筈の心が、ゲームをするための日々で更に満たされていく
先の事を考え始めれば加速度的に興奮が抑えられない
“楽しい”
親父に初めて[空手]を習った時のような
千花姉に初めて[技]を教えてもらった時のような
奈々に初めて[ゲーム]を勧められた時のような、そんな楽しさを俺はまた味わう事が出来ている
忙しい筈の日々が、それなのに何故か俺の心を満たしていく
これが“リア充”と言うやつなのだろか………少し違うか?
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