第25話

「なんでそこでその答えになるんだよ⁉」

「だってあの子が自分で言ってたんだぞ?肯定するのが正解じゃないのか?」

「違う!あの子は敢えてそう言う事で、プレイヤーに気付いてほしいんだよ!自分の本当の想いに気付いてもらうヒントを勇気を振り絞って言っているんだよ!」

「嘘付け!それならそうとはっきり言った方が良いに決まってるじゃないか!そんな回りくどいやり方をいちいち頭であれこれ考えて言い寄る人が居てたまるか」


「なんでだ⁉なんでお前はそうなったんだよ⁉どの属性の子で始めても、スタートラインにすら立てねぇじゃねえか⁉どうなってんだよぉ」

「やっぱりムズゲーだよ恋愛ゲームは。これなら一人でチクチクオーガとギリギリの戦いをしてるほうが、例え時間が掛かってもマシだ」


トレーニングは終わってないが、どうせこの痛む体では続けられないと割り切って今日は止めにして、シャワーをさっと浴びて部屋に戻り、ヒロオススメの恋愛ゲームをプレイする


初心者にも分かりやすい、難易度最低クラスのゲームらしいが、画面の中の女の子が言っている意味が1つも理解出来なかった

いや、正確には理解したのだが、それに対する答えが不正解ばかりなのだ


気分転換になればと、恋愛ゲームをしてみたが完全に不完全燃焼。モヤモヤが募るばかりとなった

コンコンコン

そこに扉からノックの音が鳴り、俺とヒロは一瞬固まり扉の方に目を向ける


一瞬の静寂に俺は違和感を覚える

何故なら扉の向こうの人物が、姉であるなら問答無用で入ってきても不思議では無いし、先ず声を掛けてくる

それに親父であっても、例の時以来部屋に訪れた事は無い

であればこのノックの主は誰だ?


そんな事を瞬時に頭で考えて居たのも束の間、不意に扉が開き外に居た人物が中へと入ってきた


「なんだ居るじゃん、お疲れーノブ君。ここの道場気に入ったよ。また来ても良いかな?」

突如として俺の部屋に現れたノックの主は、生徒用のシャワー室で汗を流したと思われる春香さんその人だった

しかしまた何故そんな服を?と思ってしまう春香さんのタイトな格好に、俺とヒロが一瞬呆けてしまうのも無理は無いように思える




「気に入ってもらえたなら良かったですよ」

「うんうん、皆ノブ君の“喝”のお陰かいつもの感じで相手してくれたと思うよ」

「そりゃあそうですよ。元々親父の教えもそうですし、むしろ最初皆が手抜きしてたのが不思議なくらいです」

これが魔性の女というものなのか?違うか?


「そう言えばノブ君もCBWやってるんだよね?」

「まぁ最近ハマっているゲームではありますね」

お互い初めて会ったのもつい昨日のステータス更新会場なのだから当然と言えば当然となる


「だったらさ、“フレンド登録”しようよ」

「?まぁ何かね縁ですしね。またいつか冒険にでも行きましょうか」

「……あれ?もしかして分かってない?私はね、ノブ君が道場を紹介してくれたらそれで終わりだなんて思ってないんだよ?むしろ最初に興味を持ったのは“君”なんだよ?」

そうなのか?確かに最初から俺がこう言った道場を知っていて、しかもそこの道場の息子だなんて思わなかっただろうけど、役目としては充分に果たしたと思うんだが……


「CBWにはさ、“フレンド対戦”機能もついてるんだよ?知ってる?だからこれ使ってまた対戦しようよ」

「そうなんですね……まぁ、それは別に良いですけど……」

“組手”なら、春香さんが道場に来ればいつでも相手をすることができる。勝ち負けでは無いが、もうあのような事は出来ないだろうけど別に毎回勝つ必要が無いのならば、受け流す練習にもなる

だからわざわざゲームを使ってまで俺と闘う必要は無いと思うのだが……


「言ったと思うけどさ、私は“君”だから声を掛けたんだよ?ノブ君は本当はもっと強いんでしょう?今日の組手がノブ君の“本当の実力”だとは私は思わないよ」

………あぁ、この人は本当に“勘”が…………いや、“目”が良いんだろうな……

最近また空手をやり始めて気付いてしまった自分の弱点を的確に当てられてしまった

身内にも居るから少なからず分かるが、武道を歩む人の中には場の空気、相手の挙動、視線等を元に、相手の心理や状況を瞬時に“把握”する人達がいる

ある意味では一種の“第六感”とも言うべき得体の知れないセンサーを、自然と身に付けた人は当然のように強者であったり、武道に真剣に向き合っている人達が多い


そして目の前の春香さんもまた、武道に真剣に向き合い、かつ強者であるからして俺の弱点を見抜いてしまった

本来であれば気にしなくていい部分な筈なのに、もうこの力を人に向けて振るわないと決めた以上関係ない筈なのに……いざ相手を前にすると萎縮してしまい“本気”にはなれない俺の事を春香さんは“把握”してしまった


振るわないと決めた……だけど萎縮してしまって本気が出せない……そんな自分が嫌だと思い……だけどそんな事を相談できる人も周りにはいなくて……それを春香さんが見抜いて……

「…………………だからこそ“これ”なんじゃない」

思考の末に、徐々に暗い雰囲気を纏う俺を春香さんが明るい声で吹き飛ばす


「“CBW”ならさ、プレイヤーはまさに自分の“分身”でしょ?それならいくら“本気”でやっても相手は傷付かないし自分も傷付かないよ?元々“再現度”が高いって友達に聞いて始めたのよねこれ。ゲームなんてそんなにしたことなかったのに、やってみたら映像も凄い綺麗だし驚いちゃった。自分の実力がどんな物か測るためにも使ってたから、ノブ君がまたゲームでも対戦してくれたらお姉さん嬉しいな」


あぁ、この人は一体どこまで俺の事を“見抜いて”いるんだろうか?

だけど確かに言われてみれば、ゲームであるならば俺は“本気”になれるのかも知れない

会ってまだ2日。昨日の夕方に初対面のこの女の人に、俺は何故だか少し救われているような………そんな気がした


「是非お願いします。今度も負けないですよ?」

「ふふ、今度はやられないからね?」

不思議と息の合ったように春香さんと握手をし、春香さんはまたねと帰っていった

取り残されたのはこれまた不思議と更に“活力”の湧いた俺と、未だ口を開かず呆然としている親友


「……お前女の子の扱い得意じゃないのかよ?一言も喋らないじゃねぇか」

「……………むしろ俺はお前にびっくりだよ。あの会話の流れでなんで話しが続くのか俺には理解出来ん」

「そんなもん互いに相手の思考を予測して考えてるからこそだろ?」

「……お前数分前に自分が何言ってるのか覚えてるか?」

「……いや、忘れたな」

「嘘つけこの野郎…………なんでそれを奈々ちゃんにもしてあげないんだか」

「…………ん?なんか言ったか?」

「………何でもねぇよ。……ただ……これは奈々ちゃんの代わりだ」


そう言って肩を叩く親友のパンチは、奈々の代わりというには程遠いくらいに弱かった



「………弱…」

「うっせぇ!」






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