第19話

《ガアァァァァァ!》

ドゴンと地面が叩き割られるエフェクトが画面いっぱいに広がり、その威力と範囲をこれでもかと見せつけてくる


「僕から仕掛けるよ!」

言うが早いかヘッドホンからアキくんの声が聞こえて来ると同時にオーガに向かい駆け出すアキくん

現実の世界でもし相対したのならば、まず間違いなく逃げ出すであろう巨大な相手にアキくんは駆け寄り、その斧による一撃を与える


おぉ、見ればアキくんの一撃はオーガの体力ゲージを10分の1程減らしていた

それが凄い事かどうかは未だ判断しかねるけど、肩口辺りに当たったダメージでそれなら、頭にヒットすればもっとダメージは出るかも知れない。それが必殺技なら尚更だ


だけどそんなアキくんも回避は苦手なのか、斧を振るった後の隙を上手く狙われ、反撃の拳をモロに食らい吹き飛ぶ

「アキくん⁉」


アキくんにヘイトがいってる間にオーガの背後から懐に入り込んでいた俺は、吹き飛んだアキくんの体力が一気に半分ほど削れた事を画面の端で確認して青ざめてしまう

重装備のアキくんであれなら、軽装である今の俺が食らえば確実に一撃死してしまう相手だ


別にデスペナもないゲームだからやられても問題は無いが、最後のセーブポイントがある街で復活することは、アキくんをここに1人で残していくことになってしまう

せっかくのアキくんとの初めての冒険でそれは許されないと、一層気を引き締めて俺はオーガと対峙する

既にオーガに手の届く距離にいる俺は、隙の少ない弱攻撃の突き蹴りをオーガに叩き込んでいく


時折くる反撃も、最小限の動きで躱しつつコツコツとダメージを重ねていく

あまり大きく避けてしまっても、先程の地面を揺らす範囲技を使われてしまう方がやばいからだ。それなら腕をブンブン振り回してくる今の方がまだ余程いい

そして回復の薬でも飲んだのか、体力を完全回復させたアキくんも加わり更にダメージを与えていく


てかアキくん明らかに避ける気がないね

オークとの戦いでは、相手が一撃で倒されたり怯んだりしていたから分からなかったけど、体力もあるオーガ相手では怯みでもしない限りは一撃で倒す事なんて叶わない。結果的にさっきからずっと一撃与えてから一撃貰ってる状態だ。

はたから見れば完全なただの魔物と人間のどつきあい。どんだけ回復の薬を持ってるんだろうか?


そんな戦闘を繰り広げる事しばらく、順調にダメージを与えてきた俺達だが、ついにと言うかやはりと言うべきか予想はしていた事態が訪れた

「あ、ごめんよノブ君。回復の薬が切れたみたいだ」

そりゃあんだけ消費してたらすぐ無くなるだろうけどね。とは心の中でのツッコミ


見ればオーガの体力は最後のバーの8割を残すばかり。今までを考えればアキくんがあと5回は攻撃を当てないと削れない量だ。もちろんその間もチクチク俺が攻撃している事も計算してだ


どうするか………?

画面を見つめ、手にコントローラーを持つ俺自身にも妙な汗が頬を伝う

涼しい筈の部屋でのそれは、ゲームの中にそれほど“集中”し始めた証拠。これはゲームの筈なのに、まるで現実世界で対峙しているかのような臨場感を味わってしまう

それはこのゲームのクオリティがそうさせるのか?もしくは地味に大きな画面に向き合い、ヘッドホンを通じて戦友と共に強敵と戦っているからか?

はたまたその強敵と戦っているのがまさに自分自身の分身体と言っても過言ではない“俺”だからか?


久しく感じてなかった緊張感が今の状況を瞬時に理解し、同時に解決策を導いていく

それははたして俺の自称ゲーマーとしての物なのか、はたまたしばらく眠っていた筈の武道を嗜む者としての何かなのか

俺はアキくんに指示を飛ばす

「アキくん!今オーガは君を狙っている。攻撃はしなくて良いから防御に専念して」

「わ、分かった」


いきなり指示を出した事に驚いたのか、元より高かった声が更に上ずるアキくん

俺はオーガがアキくんに向かった事を確認して一旦オーガから離れ距離を取る

そして画面越しに深く集中。ここでミスれば間違い無く敗北する


オーガがアキくんから離れて俺をターゲットに変える

距離がある事に対して先程のような近接技ではなく、岩を投げ付けてくるような遠距離攻撃を仕掛けてくる

俺はそれを確認してオーガに向かい駆け出す

次々飛んでくる岩をギリギリで躱し、あとオーガとの距離が寸前の所まで近付く事に成功する


そしてオーガが大きく振りかぶり、最初に見た地面への叩きつけの技を繰り出そうとする

「ここだ!」

狙いはまさにこの技。俺は自身とオーガの距離、タイミングを完全に把握した状況でずっと溜まっていたゲージを一気に使う

それは押せば一瞬で2メートル程の距離を潰し、かつ相手の技の最中で放つ必殺にして最大火力になりうるカウンター

「正拳突き!」


オーガが腕を振り下ろすより先に懐に飛び込んだ俺が放つ正拳突きは、現実世界であるならまさに意識外にある不意の一撃

結果、初めてボス戦で放った必殺技でオーガは怯んだような弱々しい声を出しながら攻撃をキャンセルさせ、少しだけその巨体を後退させてからしばしの硬直を見せる

かく言う俺も必殺技の反動で同様に硬直。見れば今の一撃で残り8割あったオーガの体力を残り2割まで減らす事に成功している


このままならばおそらく先に硬直が解けるオーガに一撃を貰い俺のリタイヤは確定

………けど、そうならない為の作戦は既に打ってある。と、言うよりこれこそが“仲間”と共闘する醍醐味じゃないか?

「行けーアキくん!」

「ぬううぅぅん!!」


アキくん自身が発した訳ではない、ゲーム内でのアキくんが普段からは考えられない野太い声を放ち、両手で持った斧を思い切り上段に構えたと思ったら、真っ直ぐに振り下ろした

その一撃は先のオーガの技よりも派手なエフェクトを画面いっぱいに広げ、オーガの体力の残りを確実に削り取り俺達の勝利が確信した

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