第20話

オーガとの戦いを終え、俺達はアキくんの持っていた帰還の羽と言うアイテムで最初の街へと戻ってきた

「お疲れー。かなりの強敵だったね」

「うん、あのオーガは前に戦った奴より強かったよ。お陰で薬が足りなかった」

「そうなの?別に上位種って訳でも無さそうだったし、もしかして個体別に強さのバラつきがあるのかな?」


「そうかもね。パーティで行っても強さは不変の筈だからそれで合ってるかも知れない。体も二回り程大きいみたいだったし」

仮に個体別で強さに変動があったとしても、1人で行こうが4人で行こうが敵の体力が増えたりしないのであれば、今後はパーティを必ず組んで行動したくなるのが通常の人の心理だろうか


「てかアキくん攻撃避けたりしないの?いつもあんな感じ?」

「そだよ。今日は居ないけどいつもはもう一人の子とパーティを組んで動いてるんだ。その子は回復魔法が使える子でね、僕は基本前で敵を全部引き付けてるから避けないんだ。それに回復の薬は自作だからお金も掛からないし」


…………?

なんだろう、何か予期せぬ言葉がいくつか聞こえた気がしたが……

「…そ、そうなんだね。ち、ちなみにその子は男だよね?男で回復魔法使えるなんて将来は医者志望の子なのかな?それに今アキくん回復の薬を自作したって言ってたような……」

「そうだよ。回復の薬は薬草と魔力を使ってクラフトスキルで作るんだ。それで一緒にパーティ組んでるその子は、女の子で同い年の高校生らしいよ」


そうなんだーとかなんとか会話を続けながら、俺は震える手でコントローラーを操作しメニュー画面を開く

そして自身のメニュー画面にある、アキくんの言うクラフトの部分を見やるがやはりグレーに染まり“俺”ではクラフト出来ない事が分かる


この時点で俺とアキくんの間には、力、頭脳はもちろんの事、女の子と楽しくゲームをすると言う思春期男子の夢すらも大きく負けている事が分かった

いや……良いんだけどさ……このゲームって言わば俺の分身を操作してるようなもんだからさ、なんとなくゲームで負けたと言うよりは“男”として負けた気分になるよね……

同じパーティを組んだアキくんだから勝ち負けとかは無いんだけどさ……


俺だって楽しいゲームを共有する人がいればもちろん嬉しいし、更にそれが女の子で、しかも年も近いとなればテンションは上がる

俺も人並み程度には女の子に興味もあるし、一緒にゲームをしたりしたい願望だってもちろんある

ただ俺の周りにはそんな女の子は一人も居ないし、しかもこのゲームに至っては見た目がまんまそれだ。前とは変わってしまった体の俺に仲良く出来る自信は無い


「ノブ君ノブ君。どうしたの?疲れたかい?」

「………おっと、ごめんごめん。少し考え事してたよ」

「大丈夫かい?まだ時間もあるしギルドの依頼がてらに薬の材料を集めたいんだけど良いかな?」

「うん、もちろん良いよ。いろんな場所に行ってみたいしね」


うっかり考え事をしてアキくんを放置してしまったみたいだ。今はパーティプレイ中、しっかりしなければ

その後更に[沼地]や[草原]にも出向き、アキくんの目当てである薬草やらなんやらを採取しながら、俺はリザードマンやハーピー、ラミアなんかを討伐していった


リザードマンは剣と盾を装備していて、武器を持たない俺には不利だったが、俺を囮にしている隙に背後からアキくんによる強力な一撃で体力を8割削った後に、怯んだリザードマン目掛けて強攻撃を出せばそれでサクサクと倒す事が出来た

ラミアも同様の戦法で比較的簡単に討伐する事が出来た。ただ、あの蛇特有の独特な動きに翻弄されて、何発か貰ってしまった

お陰でオーガ戦の後に買った未だ少ない残金での貴重な回復の薬を使うはめになった。地味に高いんだよねこれ


そして苦戦したのがやはりハーピーだった

なにせ敵は空を飛んでいる。これが通常のファンタジーゲームなら、ここで飛び道具の1つも飛ばして迎撃するんだろうけど、このゲームはそうはいかない

結果、チクチクチクチクとゴブリン程度の攻撃を地味に貰いながらもなんとか倒す事が出来た





「今日はありがとうノブ君。」

「何言ってるのさ、こちらこそだよ。アキくんのお陰でいろんなモンスターを倒せたし、何よりいろんな場所に行けて楽しかったよ。俺の方こそありがとう」

時刻は既に夕方の6時頃。昼間からやり始めた事を考えれば、途中で休憩を何度か挟んだとは言え、かなりの長時間をアキくんと共にゲームしてたことになる


「僕は結構毎日やってるんだけどノブ君はそうじゃないんだよね?」

「……うん、まだ本来の動きが出来て無いからね。平日は変わらずトレーニングかな?」

「うーん、結構機敏に動いてたと思うんだけどなぁ。あのオーガ戦で見せた一撃もかなりの威力だったし」

「ははは、あれはまだまだだよ。今に見ててよアキくん。次一緒に冒険するときは更に強くなってるから」

「え?あれでまだまだなの?ノブ君ていったいどれほどの強さを求めて……」


『伸之ー!そろそろご飯の時間だから降りてこーい!』


「うぇ⁉今日は早くないか?『分かったー!』ごめんよアキくん。待たすと姉ちゃんに怒られるからまた今度ね」

「えぇ⁉わ、わかった。また今度!次は僕と組んでる子と一緒に3人で行こうよ」

「⁉了解!楽しみにしてる。また連絡するね。じゃ!」


そう言って最後はドタバタで終わるアキくんとの初のオンラインプレイ

アキくんもかなり強かったし俺もまだまだだと知ったとても有意義な時間だった

もちろんとても楽しめた上でそう思うだけだから、今日と言う時間は素晴らしかったの一言に尽きる


未だ重たい体の俺にとって、辛いと思えるトレーニングも、また頑張ろうと言う活力が沸いてくる。そんな一日だった

さぁ、明日からまた頑張ろう

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