第17話

「おはよー」

「おはようノブ。今日も早いな」

休日も終わり、勇者から再び高校生へとクラスチェンジした俺。あくまでもゲームの中での話しだが


「まぁ最近は朝のランニングの為に早起きしてるしな」

「そういえばお前かなり痩せたよな?痩せたってより引き締まった?」

「フフフ、そう見えるか?今に見ていろ、直ぐにあの頃の体に戻ってやるさ……フフフ…」

「なんだよあの頃って。お前はあれか?痩せると特有の病気が進行しちゃうのか?」

「…………今の俺は機嫌が良い。命拾いしたな」

「やっぱりだめだこいつ。どうにかしないと」

なんてやり取りで貴重な朝の時間を親友と駄弁っていると、何やら不穏な気配がゾクリと背中を刺激する……この気配は……オーガ⁉


「あら、朝から楽しそうね?何かいい事でもあったのかしら?」

声を掛けてきたのはこちらを鋭い目付きで睨みつける奈々だった

いや、こちらをと言った事には少し語弊があるか?奈々は俺とヒロが話していた所を見ていた訳ではない。ばっちりと俺だけを睨みつけていた


「そうなんだよ。やっとゲームで先に進めるようになってさ、昨日なんてまだネットにも載ってないような超レアドロップなんかもゲットしてさ、もう最高だったよー」

「あれ?ノブ?大丈夫?これ大丈夫なの?」

ヒロが何やら少し焦りながら俺に話しかけるが、急にどうしたんだとこっちが聞きたい


奈々の方から“何かいい事でもあったのかしら?”

と聞いてきたのだから、普段はあまり関わらないようにしている俺も、今日は機嫌が良いから少し話しをしただけじゃないか

オーガのような気配を纏ってるのはきっと奈々が機嫌が悪いからだろう

自身が機嫌悪いなら話さなければ良いけど、奈々は優しいからな。珍しく楽しげな俺を構ってくれたってとこだろう

まぁあのゲームでは、オーガはまだ倒した事はないからどんな気配を持っているかは知らないんだけど


「へぇ、そうなんだ。それは良かったわね?私を無視してまでゲームがしたかったの?」

「無視?なんの話しだ?」

「………一昨日、私と会ったわよね?」

「うん?………あぁ、そういや更新帰りに偶然会ったな」

「………珍しく街で見かけたものだから、声を掛けたのだけれど?」

「あぁ、そうそう。ゲームの件でちょっと用事があってね。てか奈々モジモジしてたからトイレにでも行きたいのかと思って俺は気を遣ったんだよ。お陰で間に合っただろ?」


「…………………ノブ、今度良いゲームを紹介してやる。大丈夫、お前が苦手な恋愛ゲームだが、親友たるお前の為なら一日横で見といてやるよ」

「なんだよヒロいきなり。いいよ別に、俺はそんなのしなくたって大丈夫だっての」

「……………ノブ………」

「ぐぁ⁉」

奈々は無防備で座る俺の腹に右ストレートを叩き込んでから戻っていった


「……な、何故……?」

「ノブ。お前が悪い」

俺は痛む腹をさすっているとチャイムがなりヒロも戻っていった

しかし奈々………良いパンチ持ってるな……

もし仮に奈々があのゲームをやったのなら、どういう冒険をすることになるのか気になる所……

……まぁ奈々はあぁいったゲームはしないだろうけどね




「ただいまー」

家に帰れば早速トレーニング。今日は道場の日の予定だ

今の体に合わせたまだ新しい道着を身に纏い道場へと向かう。道場の生徒達は、近所の子たちなら道着を着たまま来る子も少なくないが、今日のこの時間帯は中学生から高校生くらいまでが対象となる時間帯。いくら近所であっても道場で着替える事になるのが通常だろう

だから実家が道場である俺は、部屋に荷物を置けばそのまま着替える事が出来るので、少しだけ他の生徒達よりも早く道場に着くことが出来る


そんな俺より早くに道場でウォーミングアップをしているのは、この道場では珍しい女の子の生徒

「早いな。勉強は良いのか?今年受験生だろ?」

「私は良いのよ、ノブ兄と違ってしっかり勉強もしてるから。行く高校もそこまでレベル高くないし」


そういう彼女は、中学3年になる山森雪奈(ゆきな)まだ小学1年生の時からこの道場に通う彼女は、実力もかなりの物で、一度雑誌でも取り上げられたくらいには格闘技女子としてはその強さを誇っているし、何より未だ中学生ながらに発育が大変よろしく、顔立ちもかなり可愛いからか、写真集を是非との声もあったほどだ


しかし当の本人にやる気が全く無く、取材を受けたのもその時の一度きり。彼女ならばその気になれば、モデルとしてもやっていけるだろうし、何より高校だって推薦の話しがいくつも来ている筈だ。なのにその道を選ぶ事をしない彼女に、俺は昔からだが未だに何を考えているのか分からない


「先生は?」

「まだ休憩じゃないか?さっきまで小学生のクラスだった筈だからな。時間まであと少しあるし」

「そっか………2人だけだね……」

「……そうか?あと5分もしないうちに皆集まってくるだろ」


そう言って会話が終わると俺は自身のウォーミングアップを始める

……あれだな。小さい頃から知ってるとは言え、一度は空手を辞めた俺がまた空手をやり始めた事に不快感があるんだろうな。俺と2人だけの空間に嫌気が指してたみたいだ。他の練習生が見当たらないからって、俺の親父まで早く来てくれと渇望するとはかなり嫌だったに違いない


事実、稽古中の自由組手で彼女と当たった時はかなり本気で突き蹴りを入れられてしまった

未だ勘を取り戻しておらず、体も全盛期とは違う為に受ける事も避ける事も出来なかった

どれだけ嫌われたんだろうか俺は?

昔はノブ兄ノブ兄と慕ってくれていた筈なんだけどな…







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