第9話
土曜日の夜。ひたすらに装備するだけで自分の攻撃力が下がる武器の為に注力して心が折れた後、千花姉の飯を食い、お風呂にはいってさっぱりとした俺は部屋に戻ると考えにふける
焦点となるのはやはりこのゲームの行方
諦めて違うゲームをすることは簡単だ。ゲームを購入したお金の分は損をするが、これ以上やった所で、更に心が折れてしまうのは簡単に想像がつく
実際、スマホで確認したところ、各地で詐欺だなんだと文句を言うCBW購入者達が少し話題になっていて、掲示板でもクソゲーやらなんやらと酷評がひどい
購入することを思い留まった人達も結構な人数いるようだ
だけど掲示板にはこんな書き込みも少数寄せられていた
{ゴブリンなんて余裕だろ?適正武器で行けば簡単簡単。俺中学ん時剣道やってたし}
{足の速さだけが取り柄だったからとりあえず逃げ惑ってるけど面白いよ?w西の街で天使の靴を装備してからは更に速くなったし}
{拙者現実でも魔法使いだからかかなり強いでござる。身体能力が絶望的だったからさらに勉強して知力を伸ばすでござるよ}
{弓道やってて良かったよー。私の動きそのものなんだけどマジ最高。てかグラフィックの作り込みとかマジ神じゃない?私的にはマジ神ゲーなんだけど}
{俺他の武器使うより素手の方が強いから普通にぶん殴って進めてる。どんなゲームだよってな?wだけど言うだけあって結構革命的?ステータス更新の為に筋トレの量増やしたわ}
{自分の声まで入ってるって最高すぎる。必殺技の度に俺まで叫んでるよ。ただ自分の声って聞くと恥ずかしいのなw最初わかんなかったよ}
などなど、CBWを純粋に楽しめている人達も一定数いるみたいだ
そしてそんな人達の共通点と言えば、皆なにかに秀でていることじゃないだろうか?
肉体的な強さで進めてる人もいれば、魔法使いタイプとして進めてる人もいる
肉体的な人達は皆得意な事があったり、特技をゲームに活かせているのがほとんどだ
魔法使いタイプの人達も、皆有名大学の在校生だったり、学力の成績が高い傾向があるとネットの住民が発表していた
だとすれば……もしかしなくてもまだ俺はやれるかも知れない
いつからこうなってしまったのか、体はブヨブヨになって運動なんてしなくなった
だけど元々はそうじゃなかったんだ。昔は父に倣い空手をやっていた
姉と一緒に幼い頃から空手一筋でやってきた俺は、[神童]なんて呼ばれていた頃もあった
大会なんかも全て優勝して、同世代では無敗の敵なし。学校でも俺は有名人で、時折メディアにも映る事もあった
[神鷹伸之]格闘技の世界では俺の名前はかなり知られていた
プロになって早く試合が見たいと、多くの関係者達にも注目されていた
だけど、それらは全てあの時までの話しであり、今となってはもう過去の物。俺としてもその事に蓋をして、思い出さないように、余計な心配をかけないように振る舞ってきた
…………それでも、少しだけ……今からでも遅くないんじゃないかと思ってもいる……
好きでそうなったわけではないが自然とそうなってしまった自分の体。毎日毎日目的を見い出せずにゲームに没頭して満足感を得る日々
もちろんゲームは好きだ。最初こそ不純な気持ちで、それこそ只の現実逃避の手段として用いただけだったゲームだけど、俺は今ではゲームに出会えて良かったと本気で思えるくらいに、真剣にゲームを好きでやっている
だけど、そろそろいいきっかけになるのかも知れない。もう失った筈の過去の遺物だけど、頑張れば少しくらいは取り戻せるのではないだろうか?
諦めて投げ出すのはとても簡単だ。だけどもし、このCBWと言うゲームをクリアすることが出来るようになっていた時、俺は今の自分を少しだけ変えることが出来ているのかも知れない
まずは続けてみよう。そして努力してみよう。なんてことはない、俺は元々努力が好きじゃないか
それに、このゲームの世界であれば、敵はモンスター。全力を出したって構わない相手ばかりだ
よし決めた。俺はこのゲームをクリアする。しかも俺の空手でクリアするんだ
大丈夫。掲示板には素手で進めている人もいたし、装備品によって能力を上げる事が出来ればドラゴンだって殴り飛ばせるようになるかも知れない
そうと決まれば明日からトレーニング開始だ
ランニングで体力を鍛えて、筋トレをして筋力を取り戻すんだ。道場の方にも顔をだそう、技術の向上もこのCBWには必要不可欠だ
やってやる、俺はやってやるぞ
そう決意を固めた俺はベッドに横たわり目を閉じる
………明日は日曜日か…………月曜日からにしようかな………
決意を固めた所で、未だ意志の弱い俺はまた逃げようとした考えが頭を過ぎってしまう
たいていの人の場合、それがズルズル続いてしまい、結局何もしないと言うことが大半なのだそうだ
………………いや、明日からやる。俺は変わるんだ
結局の所、どんな大義を掲げた所で行動を起こさなければ何も起きないのだ
まずは行動してみる。それを一歩、踏み出せるか否かが、人生と言う長く続く旅路の行く末を明るく照らし出してくれる事も、あるのかも知れない
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